日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 408
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発表要旨
埼玉県深谷市におけるブロッコリー産地の発展と経営戦略
*深瀬 浩三
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抄録
本研究では,集約的な経営で生産規模を拡大させているブロッコリー産地を事例として,ブロッコリーの生産・流通から産地の存続とその課題を検討するにすることを目的とする. 研究対象地域は,全国市町村別で一位のブロッコリー作付面積を誇る埼玉県深谷市(旧岡部町)の榛沢地区を事例に考察した.埼玉県北西部に位置する旧岡部町は,1973年から1978年にかけて圃場整備を実施し,多くの桑園を畑地化した養蚕転換型の野菜産地である.養蚕から加工用の大根栽培が行われていたが,1979年から榛沢農協と先駆的農家らによって榛沢農業協同組合青果物一元出荷協議会が発足し,栽培しやすく今後の需要の増加が見込めるブロッコリーが導入・普及した. 1982年頃には,産地内に品種選定試験圃場を設置したことで,全国に先駆けてブロッコリーの栽培技術が確立され,ブロッコリー栽培が周辺地域へ広がった.協議会への参加する農家も徐々に増加していった.1986年からは,より精度が高い計画出荷を図るために,榛沢農協と農家との取り決めによる出荷申告制度を導入した.このようなシステムを導入することで,農協から一定量を一定価格で業者に出荷することが可能になり,取引先からの信頼を得ることにもつながった.この頃には,連作による品質低下を防ぐために,秋冬ブロッコリーと春ブロッコリー,スィートコーンを中心に輪作体系が確立された. 1990年からは,JA全農さいたまブランド化事業である「菜色美人」の指定を受けブランド化を図っている.技術革新の導入によって,ブロッコリーが栽培しやすくなったため,農家の中には新規参入者(定年帰農など)もみられる.約100戸で構成される出荷協議会では,2002年から生産履歴記帳を開始し,2004年には農家全員がエコファーマーを取得し,さらに安全安心な野菜作りをめざした取り組みが行われている.ブロッコリーの共販体制は,1985年にブロッコリーをより高鮮度に保持できる真空式予冷庫を榛沢農協の集出荷場に設置したことで,京浜市場だけではなく,北海道や東北地方などの遠隔地へも販売が可能となった.また,安価な輸入生鮮ブロッコリーに対抗するために,1993年から期間値決め方式,1994年からは選別・箱詰め労力の軽減とコスト低減を図っている. 出荷協議会では,1985年から1990年代半ばにかけて東京都内や北海道などの量販店などで販売キャンペーンを実施し,1999年からはラジオ宣伝活動を行っている.このような活動の成果から,東京大都市圏を中心にチェーン展開している小売店などから榛沢農協へ直接注文が入るようになり,代金回収の利便を考えて,卸売市場を介した販売を行っている. 東京近郊産地の深谷市榛沢地区では,農協主導のもとで農家が一体となって,秋冬と春のブロッコリー栽培を中心とする綿密な生産計画を行ってきた.また,ブロッコリーの品種選定試験圃場の設置,厳選選別検査,生産から流通にわたる技術革新の導入によって,産地の生産規模を拡大させ,高い収益を得ることができた.品種更新やさらなる省力化などの技術革新によって,しばらくは高齢者や新規参入者による産地規模の維持は可能と考えられる.だが,農家は農地をフル活用しているため,作付面積の規模拡大は難しい.今後は,農協が耕作放棄地の発生を予測し,大規模農家にうまく集積していくような農地貸借システムを構築する必要がある.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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