抄録
2011年東北地方太平洋沖地震により,東日本の広範囲において多数の液状化被害が生じた.本発表では,利根川下流低地,福島県北部国見町,宮城県南部白石川流域,宮城県北部大崎平野などの内陸部において生じた液状化被害について報告する.また,利根川下流低地における液状化被害の発生が微地形や土地の履歴と密接な関係にあることを示す. 液状化被害分布を明らかにするため,Google Earth画像の判読と徒歩および自転車による現地踏査をおこなった.現地踏査では,目視による観察により,液状化被害の発生地点,被害形態等の確認・記載をおこなった.液状化に起因する構造物被害の多くは,現地踏査により確認した.利根川下流低地に関しては,GISを用いて液状化被害分布と国土地理院発行治水地形分類図や明治初期~中期に作成された迅速測図,明治後期以降に作成された旧版地形図などとの重ね合わせをおこない,液状化被害発生地点と微地形との関係を検討した. 利根川下流低地では,明治期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道の埋立地や,利根川沿いに多数分布していた湖沼(落掘)や湿地の埋立地(旧湖沼,旧湿地)などにおいて,水田上や小河川河床における多量の噴砂の堆積,家屋や電柱などの構造物の沈下・傾斜,堤防や盛土の損傷等,多数の液状化被害が生じた.それらの旧河道,旧湖沼の多くは,1950~1970年にかけて利根川の浚渫土砂によって埋め立てられて形成された地盤であり(青山・小山 2011),緩い砂質地盤の存在と地下水位が浅いことが既存のボーリング資料により確認され,液状化が発生しやすい条件を満たしている.微地形ごとの単位面積当たりの液状化被害数(個/km2)をみると,旧河道・旧湖沼と高い盛土地で大きい値(137.7,119.7)となっており,次いで自然堤防(12.3),旧湿地(10.9),高水敷(7.4),氾濫平野(4.7)となっている.これらのことから,利根川下流低地では,旧河道・旧湖沼といった過去の水部の埋立地において,他の微地形よりも多数の液状化被害が生じ,高密度に液状化被害が生じたことが確認された. 福島県北部の国見町では,町役場敷地内において液状化が発生した.町役場敷地内の浄化槽の浮き上がり,コンクリート構造物の沈下や庁舎周辺地盤の沈下などが見られた.町役場庁舎は柱や床の傾き,床の凹み・亀裂や天井の落下など多大な損傷が生じたため使用困難となり,震災以降,他の場所の施設を仮庁舎として使用している(国見町 2011).宮城県南部の白石川流域内陸部(白石市,大河原町,柴田町,蔵王町)では,水田上の噴砂・亀裂,マンホールの浮き上がり,地下埋設管埋め戻し土の沈下などの液状化被害が多数生じた.白石市では,かつての水田が1980年代以降に市街地として造成された地域において,マンホールの浮き上がりが多数生じた.宮城県北部の大崎平野においても,多くの液状化被害が生じた.大崎市古川地区では,自然堤防上に発達した旧市街地よりも,氾濫平野(後背湿地)上の比較的新しい時期(1970~1980年代以降)に造成された市街地において,多数の液状化被害が生じた.市立古川東中学校では,敷地内において液状化が発生して校舎の沈下・傾斜が生じ,被災した校舎は解体された.その周辺地域では地盤沈下が生じ,建物の抜け上がり被害(大きい地点で30~40 cm程度)が生じた.また,江合川や鳴瀬川などの河川堤防では液状化に起因する堤体の沈下,崩落などの被害が多数生じ,それらの河川の旧河道においては噴砂や構造物の沈下・傾斜が確認された. このように,東北地方太平洋沖地震による液状化被害は内陸部においても多数発生し,建物,農地,電気・水道等インフラ設備,河川堤防などに多くの被害が生じて,市民生活に深刻な被害を与えた.また,役場庁舎や学校校舎において液状化による大きな被害が生じた自治体もあった.公的機関や教育施設の被災は,大地震発生後の復旧・復興活動の際の大きな支障となる.現時点で市町村レベルにおいて液状化ハザードマップが整備されている自治体は少ない.今後の大地震発生への対策を進める上で,内陸部においてもより精度の高い液状化ハザードマップの整備が望まれる.