抄録
1.はじめに
鬼押出し溶岩は浅間山の北斜面に分布し,1783年の天明噴火の際,噴火活動の末期に流出した溶岩流である(荒牧1968).これまで,この地域の植生は,高度帯により大まかに区分され,火山活動からの経過時間を考慮した植生遷移の中で理解されてきた(前田ほか1978など).それは,山頂付近では火山活動の影響を受けあまり遷移が進まず,オンタデやコメススキなどが生育,中腹はアカマツとカラマツの疎林になり,山麓部は遷移が進み,アカマツやミズナラの林が成立する,といったものである.しかし,現地において,植生を詳しく見ると微地形・表層土壌・小気候などの違いの影響を受けていることが観察される.これまでの火山植生研究においては,噴火活動後の植生遷移過程を明らかにした研究が多い(例えば,Tagawa 1964).しかし,火山は噴火をしていなくとも,地表面構成物質の移動は盛んであり,また地形の起伏の影響を受けて,水文・気象環境などは複雑である.火山植生は,それらの影響を受けて成立しているため,それらの諸環境要因を解明しないと,火山における植生分布を正しく理解することはできない.
本研究では,鬼押出し溶岩流の溶岩上の植生分布の規定要因を地形・地質・土壌・気候など複合的な視点から明らかにする.
2.研究方法
2010 年(国土地理院撮影,縮尺1万分の1)の空中写真を用い,相観植生図と地表面区分図作成し,さらに現地調査により修正を加えた.また,植生区分ごとに植生調査と地形測量,溶岩の表面形態区分,表層地質の調査を行った.
3.結果・考察
相観植生図(図1)より,同じ高度帯であっても植生が異なるところがありモザイク状の構造をしている.
地表面区分図(図2)では,溶岩上流部の中央に砂礫地,両端には溶岩の亀裂としわ,下流部では,溶岩の露出部と亀裂がみられる.このように場所によって地表面の性質に違いがある.
現地で同じ高度帯の植生をみると,地表面が安定した砂礫地や溶岩上にはガンコウラン,軽石や砂礫の移動がある不安定な砂礫地などにはコメススキ・オンタデなどが生育する.
溶岩の表面構造の違いを見ると,表面が凸凹な面は土壌が堆積しやすく,様々な植物が定着できるが,平滑な面では土壌が堆積しにくく,植物の定着が他に比べ遅れる傾向にある.植生分布の違いを生む要因は,地表面の形態の違い,表層地質の違いであると考えられる.