日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 212
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発表要旨
駅周辺居住高齢者の歩行環境評価構造に関する研究
*加藤 寛泰山田 育穂浅見 泰司
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抄録
他国に類を見ない速度で高齢化が進む我が国において、高齢者が生活しやすい都市空間の実現は重要な課題であり、「歩いて暮らせる街」には、日常生活の利便性のみならず、身体活動の自然な増加を通じた健康の維持・増進の可能性という点からも、期待が高い。同時に、環境負荷の削減や人口減少への対応といった視点から、コンパクトシティなど自動車に依存しない街づくりへの関心も高まっている。こうした都市の歩きやすさ(walkability)に関する研究にはCerinらの歩行環境に関する調査質問紙(ANEWS)が広く使われているが、欧米の都市環境を基準に作られたANEWSの日本社会における妥当性については未だ検証されていない。またwalkabilityに関する既存研究で高齢者に焦点を当てた例は見られず、歩行環境に対する高齢者特有の要望や不満を丁寧に検討する必要がある。そこで本研究では、欧米の都市に比べ自動車依存度の低い日本の都市部の状況と、高齢者の歩行行動とを考慮したアンケート調査を行い、高齢者の歩行環境に対する評価構造を分析した。アンケート調査は、西武池袋線東長崎駅を中心とする東京都豊島区の既成市街地を対象として、2011年秋に行われた。アンケートは3部構成で、居住者の歩行環境評価に関する部分、平均的な一日の行動について問う部分、健康や日常の運動を含む個人特性について問う部分からなる。総合的な近隣歩行環境に満足しているか否かを被説明変数、歩行環境の構成要素に関する評価を説明変数として、二項ロジスティック回帰モデルを推定した結果、本調査地域のような駅周辺既存市街地においては、他の歩行者や自転車との接触、置き自転車や立て看板などの歩行を妨げる障害物、近所の通りが夜でも十分に明るいこと、近所の通り沿いに植えられている街路樹の4項目が、この順で歩行環境評価に大きく関わっていることが分かった。但し、居住者の年齢には統計的に有意な関わりは見られず、高齢者特有の要素についてその有無も含め、更なる検討が必要である。今回ANEWSへ追加した環境構成要素の重要性が示された一方で、既存研究で重要とされていた商業施設等へのアクセシビリティは、評価への影響がほぼ見られず、日本の都市の状況を考慮したwalkability指標の必要性も示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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