抄録
1951-2010年の60年間のPAGASAによる日降水量データを用いて、代表的な降水指標の長期変化トレンド、1951-80年と1981-2010年の2期間での変化を調べた。データが得られる地点については、20世紀前半の状況との比較も行った。フィリピンでは夏と冬のモンスーンに伴う雨季が顕著なため、7-9月の南西モンスーンによる雨季(JAS)と10-12月の北東モンスーンによる雨季(OND)とに分けて論じた。JAS季における連続5日降雨量の最大値と、連続寡降雨日数の変化傾向では、Mann-Kendall検定により有意な変化傾向を示す地点はあまり多くないものの、連続5日降雨量の最大値は増加傾向を、連続寡降雨日数は減少傾向を示す地点が多く、強雨の増加傾向を示唆している。他方、OND季には、全土に共通した傾向ははっきりしない。60年の期間の前後半の比較でも同様の結果が得られた。中部の東海岸に位置するダエットと、西海岸に位置するイロイロでは、1940年以前のデータと比較することができ、これらの地点での連続寡降雨日数の長期変化をみると、1951年以降の期間においては前者では増加傾向、後者では減少傾向がみられているが、いずれの地点でも1940年代以前の傾向は異なっており、近年の変化傾向は数十年スケールでの変動の一部とみられる。従って限られた期間のデータにより降雨強度変化を論じる事は大変に危険である。