日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 402
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発表要旨
グローバル競争下における造船業の立地調整と産業集積
*内波 聖弥
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抄録
 造船業は本来的に国際的で,景気変動に影響されやすく,社会情勢の変化に合わせて立地調整が行われ,生産拠点と地域経済の関係も変容してきた.本稿では,グローバル競争下における造船業について,①従来研究されてこなかった中小企業や関連産業,個別企業の経営戦略を含めた分析を行い,造船業の立地調整の特徴を示すこと,②産業集積の優位性に着目して,造船業が近年建造量を伸ばしている要因を明らかにすることを目的とする. グローバル競争下の中,国内造船業は寡占化が進展し,大手企業は脱造船を進め主要工場に生産拠点を集約した.大阪に位置する中小企業は,既存工場を廃し,北部九州・瀬戸内海に生産性と高い工場を新設するという戦略をとった.それに対して,瀬戸内海の有力中小企業は,現在地に留まって生産を継続し,建造量を大幅に伸ばした.その結果,造船業全体の生産の中心が,大手から中小へ,三大都市圏から瀬戸内海へと移った. そして,造船業の立地調整に連動して,舶用工業においても立地調整が行われた.主に,大手企業において三大都市圏から瀬戸内海・北部九州へという移行が見られた.しかし,阪神の舶用工業は依然として高度な集積を維持している.これは,阪神の舶用工業の種類が川上側の重量の重い製品であり,瀬戸内海上を海上輸送できるためである. 一方で,瀬戸内海の有力中小企業は,主に今治市に本社を置く今治造船と新来島どっくによってグループ化されている.これらの企業は,阪神などに立地する大手舶用メーカーから中核部品の提供を有利に受けつつ,さらに今治市内の川下側の重量の軽い中小舶用工業,造船企業本社,個人経営の船主,商社などで構成される独自の複合的集積であり,集積内部のアクター間は人的関係により強固に結びついている. また,今治市の集積内部には,「無尽の会」というアクターの利害調整を行う独特な組織が存在する.「無尽の会」に参加することにより,どの船主がいくらで船舶を発注したか,どの舶用メーカーに受注したかなど,他地域では得られないインフォーマルな情報へのアクセスも確保される.このような地域的な人的関係資本によって,今治は日本国内だけでなく,国際的にも新造船の受注能力が高い地域となることができている.そのため,大手企業や阪神地域の中小企業が立地調整を進めたのに対して,瀬戸内海の中小企業は現在地で造船業専業を継続することができたのである.
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