抄録
Ⅰ はじめに日本の農業機械化が推し進められた高度経済成長期、拡大された農地には大量の窒素肥料が使用され、1970年代以降、全国の地下水から高濃度硝酸態窒素が確認されるようになった。近年に入り、環境基準法、水質基準項目に硝酸・亜硝酸態窒素が加わり、明確な指標は出来たが、基準値を上回る地域も依然として存在する。群馬県は全国でも有数の農作物生産量を誇るが、地下水硝酸態窒素汚染も著しく、環境省が行った平成22年度地下水質測定結果の都道府県別超過率は21.9%とワースト1であり、それ以前も常に上位に入る程、汚染は深刻である。 特に大間々扇状地のある赤城山南麓一帯は県内最大の農業生産額を誇る地域であり、過去の井戸調査からも高濃度の硝酸態窒素が確認されている。本研究では大間々扇状地薮塚面の地下水環境の長期的な変遷を明確にし、地下水汚染源の特定と今後の対策について考察する。Ⅱ 地域概要大間々扇状地は赤城山南麓に位置し、5万年以上前に、古渡良瀬川の浸食・運搬・堆積作用によって形成されたみどり市の標高200m付近を扇頂とし、標高50m付近の太田市・新田町・伊勢崎市を扇端とする南北約18km、扇端幅約13kmの扇状地である。西側には起伏に富んだ桐原面が広がり、東側の薮塚面は侵蝕谷なく起伏が小さい。扇端の新田町では江戸時代まで118箇所程の湧水が確認できたが、現在は渇水や埋め立ての影響により、季節的に自噴する湧水を含め28箇所を数えるのみとなった。渡良瀬川は扇状地最東部を流れ、桐原面と薮塚面の間には早川貯水池を源流とする早川が貫流し、扇端には北西から南東にかけて利根川が横断する。薮塚面に河川は存在せず、渡良瀬川より引かれた岡登用水路が流れる。大間々扇状地の地下水に関する研究では、阿由葉(1970)が、降雨の影響が約2ヶ月遅れて地下水位に現れ、水温も地表の気温から約2ヶ月送れて反映されることを示し、扇央域の塩素イオン濃度が高い原因は漬物の排水であることを明らかにした。関谷(1996)は、薮塚面の水温が年間を通じて比較的高いことを示し、岩田(2004)は扇端部分の新田町123地点で調査を実施し、過半数の地点で硝酸・亜硝酸態窒素が高濃度であることを明らかにした。Ⅲ 研究方法対象地域における過去の調査結果を整理し、長期的な環境変化を明確にした上で、新たに観測網を整備し、地下水だけでなく河川・用水路の観測網も配置して、河川水・地下水の交流についても検討する。特に、今回は、2012年6月~8月に行った現地調査結果と過去に記録を比較して考察する。現地では、AT, WT, EC, pH, RpH, 水位などを観測した後採水して、主要溶存成分を分析した。Ⅳ 結果と考察大間々扇状地のECの値は相変わらず高く、特に数カ所では、1970年頃に指摘された漬物排水に由来すると思われる高塩分濃度の地下水が観測され、硝酸態窒素濃度が高い地域も示された。局所的にpHの高い地点などもあり、流動や河川水との交流も考慮した検討の必要性が示唆された。Ⅴ おわりに今回は、6月~8月の一時期の観測結果のみでの考察となったため、季節による変化については検討できなかった。今後、継続的な観測を行い、地下水位の変化や用水路からの涵養量の違いもあわせて考察を進め、季節変化も含めて長期的な変遷を明確にしたい。参考文献阿由葉元(1970):群馬県大間々扇状地における地形と自由地下水について,駒沢大学文学部研究紀要, 28,A107-A129岩田浩二・斉藤達之・青井透・大塚富男(2004):大間々扇状地地下水の高い窒素濃度の現状とその由来についての検討, 環境工学研究論文集, 41,683-691