日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1602
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発表要旨
室戸ジオパークにおける諸問題
*柚洞 一央
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抄録

本報告では、2011年9月にGGN認定された室戸ジオパーク(室戸市全体がエリア)を事例に、世界ジオパーク認定によって発生した課題について報告する。ジオパークの取り組みが社会的な効果を上げている要素として、・審査では、地質などの物の価値より人の活動を重視していること。・4年ごとの再審査制があること。・研究者・行政・市民が対等に議論できる雰囲気があること。・ジオパークの概念が曖昧であるが故、だれもイニシアティブをとっていないこと。などが挙げられる。 室戸においても、地域全体でジオパークを盛り上げる風潮が生じつつある。(たとえば、室戸ジオパークオリジナルポロシャツの販売枚数がこの一年で約2800枚を数える。なお室戸市の人口は約16000人)一方でいくつかの問題も生じている。【観光化と自然保護の問題】天然杉の巨木を見どころにしたジオサイトが、大々的にマスコミ報道され、登山者の増加によって杉への悪影響が指摘され始めた。【伝統的生業と自然保護の問題】高知県の伝統産業である宝石サンゴ漁によって製品化されたサンゴの装飾品の販売を規制するGGNの動きと、お土産品店への影響が生じている。【対費用効果の問題】室戸ジオパークの世界認定を、高知県東部の地域活性化として活用し、数値での「成果」を求める政治的思惑と、ジオパークの理念との乖離がある。【地域活性化の指標の問題】世界認定によって来客数が増加している一方、それをビジネスチャンスと捉えて観光産業の発展に取り組む民間意識が追従していない。その背景には、欲のなさ、他者に対するやっかみ、他者依存意識の高さといった住民気質や、自給自足的な生活スタイルといった室戸の住民性が効いている。なにをもって室戸にとっての地域活性化なのかということが整理されていない問題もある。ジオパーク実践は、地球との共存を目指して、人はこれからどう生きるべきかという哲学の追求である。地質的要素のみならず、目に見えない地域性(人々の自然観、死生観など)も含めて、多様な視点から地域性を描き出す必要がある。今後、より多様な専門家や、地域住民の参画が必須である。

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