抄録
半乾燥地草原は乾湿(降水量)変動に敏感に応答して,バイオマス量やそれに伴う熱・水・炭素循環が大きく年々変動する生態系である.しかし,アメリカのプレーリーや,アフリカのサヘルとは異なり,モンゴル-カザフスタンにかけて東西に大きく広がるユーラシア草原は,冬季に土壌が凍結し,当年の乾湿変動が凍結する土壌水分として持ち越される,いわゆる「メモリ効果」の重要性が指摘されている.また,この土壌水分偏差は,バイオマス量の偏差とも相互作用し,草原生態系を生業の基盤とする遊牧民,さらには長距離移動する野生動物の移動パターンにも強く関連した現象となる.草原生態系における降水量偏差(極度の偏差は「干ばつ」となる)のメモリ効果をより深く理解するため,水資源を遮断した野外操作実験を現地で行い,土壌水分と生態系の偏差の持続と回復過程を明らかにする試みが近年行われている.本発表では,これまでにユーラシア草原で行われた2つの野外操作実験から明らかになったメモリ効果の知見を紹介し,その意義を検討した.