抄録
2011 年3 月11 日の東北地方太平洋沖地震は,プレート境界で発生する地震のサイクルについて,今までの単純な理解では不十分であることを示した.近い将来発生すると考えられている東海・東南海・南海地震の想定も再検討する必要がある. 一概に東南海地震といっても過去の記録を見るかぎり,揺れの被害だけではなく津波の特徴も大きく異なる.例えば伊勢湾の四日市と志摩半島の鳥羽を比較した場合,安政地震では鳥羽の津波波高が四日市に対して2.5-5倍なのに対し,明応地震では1.5-2.7倍となる.このような違いは津波の波源が同じでないことを示しており,詳細な津波高分布から波源域を分離することができる可能性を示している.しかし,これらの値は歴史記録に基づいており,直接的な津波遡上の証拠は乏しい.我々は伊勢湾南部で津波遡上の証拠を見つけ,伊勢神宮などに残る津波の影響を記した資料から津波の全容を明らかにするため,地形・地質学的調査および文献史学的調査を実施した.