日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 102
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発表要旨
宮城県名取川下流堤外地における2011年地震津波の遡上,地形プロセスおよび耕作地の被害に与えた河川地形の影響
*島津 弘
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抄録
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた巨大津波は広く低地を襲ったのみならず,河川に沿って遡上した.本発表では農地として利用され,かつ河道の微地形が保存されている名取川下流部の堤外地において,津波の遡上に影響したと考えられる河川の縦断面と堤外地の微地形(横断面)の視点から津波の遡上,地形プロセスと津波堆積物の形成,農地への影響を検討した結果を報告する.現地調査は2011年5月上旬と8月下旬に実施した.堤外地の農地は津波の流れそのものによって被害を受けただけでなく,塩分を含んだ海水滞留や浸透,塩性堆積物の堆積によって深刻な打撃を受けた.現地においては支柱やトンネル,マルチなどの農業資材の被害状況の記載,堆積物調査,直後の被害状況および津波被害以降の作物の生育状況の聞き取り調査を行った.また空中写真判読による微地形判読,大縮尺地形図を用いた縦横断面図を作成した.津波の高さは名取川河口付近で5.4mと推定されている.高水敷上では標高およそ6mの地点(河口から6km)まで津波の影響を受けた.津波堆積物は耕作土と容易に区別できた.堆積物は主として砂~シルトからなり,表面には塩分が析出していた.報道などの津波映像,津波堆積物の厚さ,農業資材の被害状況,横断的な影響の状況の差異から4つの区間に区分した.区間1は2.5kmまでの区間で津波の遡上だけでなく強い引き波が影響し,侵食プロセスが卓越した区間である.堆積物は薄く,侵食の跡や河口方向へ水が流れたことを示すデューンも見られた.区間2は2.5~4.0kmの区間で,津波の流れは強いが引き波は弱く,堆積プロセスが卓越した区間である.農業資材が流失または上流側へ倒伏し.堆積物の厚さは10cm程度と厚く,葉物野菜は埋没していた.区間3は4.0~5.0kmの区間で,区間2と3の境界で高水敷の標高が高くなり津波の流れが急に浅くなる区間である.旧流路と州の部分で津波の影響の差が現れた.区間4は5.0~6.0kmの区間は弱まった津波の流れが到達した区間である.相対的に低い浅い溝状地形の部分のみが影響を受け薄い堆積物のみが残された.被害を受けた多くの農地では津波後に作付けを行ったものの生育は悪かった.
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