抄録
1.はじめに
1990年代以降の粗死亡率の上昇,死亡数の増加は,高齢人口の増加に対応している。高齢者死亡数が総死亡数の85%を超え(2010年),高齢者死亡が総死亡の動向を左右しているといっても過言ではない。
筆者らは,高齢者死亡の地域差に関する研究を行っており,人口上位都道府県では,前期高齢者比率が高いため,65歳以上死亡率が低下する(北島・太田 2011,2012)。本研究では,高齢者のうち,死亡数が多い年齢階級(75~84歳,85~94歳)について,都道府県別の特徴を把握した。
2.研究方法
都道府県別の,平均余命,年齢調整死亡率,SMRは,厚生労働省が5年毎に公表しており,都道府県単位の死亡の地域差は,これらの指標から把握することが可能である。しかし,平均余命以外の指標は,高齢者に限定した死亡状況を把握するためには,必ずしも適切ではない。そこで,都道府県別年齢階級別(75~84歳,85~94歳)死亡率を用いた分析を行った。死亡率は,両年齢階級の,総数,男,女について算出した。
使用した死亡数データは,平成22年(2010)人口動態統計(確定数)(厚生労働省)である。北島・太田(2012)と同様に,2010年死亡率,各月死亡率は,1日当り,人口10万人対として算出した。人口データは,2010年国勢調査人口(日本人人口)(総務省統計局)を使用した。
3.都道府県別75~84歳,85~94歳死亡率
75~84歳死亡率(総数)の都道府県別分布図を図1に示す。75~84歳死亡率(総数)上位(高)3県は,栃木県,青森県,和歌山県,下位(低)3県は,沖縄県,熊本県,島根県である。85~94歳死亡率(総数)上位3県は,三重県,青森県,秋田県,下位3県は,沖縄県,熊本県,広島県である。
2010年都道府県別75~84歳,85~94歳死亡率には,人口との関連はみられない。75~84歳,85~94歳の両年齢階級とも,男・女の死亡率には相関がある(相関係数0.59,0.56)。
4.都道府県別75~84歳,85~94歳死亡率の季節変化
75~84歳死亡率(総数)上位3県,下位3県の季節変化を図2に示す。75~84歳,85~94歳年齢階級の,死亡率(総数),死亡率(男),死亡率(女)の全国値の季節変化は,いずれも,冬季に高く夏季に低い。各都道府県もほぼ同様の変化傾向であり,年死亡率の高低に応じて,季節推移も月別全国値を中心に,その上下で推移する傾向が確認された。ただし,死亡数が少ないと変動が大きくなる。特に,75~84歳死亡数(女),85~94歳死亡数(男)は,人口規模が小さな県では,月別値が100人未満となるため,死亡率の変動が大きい。