抄録
三陸海岸北部において3つの河川において遷急点を認めた.これらの遷急点について,海成段丘面群の形成年代から遷急点の形成時期を推定し,中期更新世以降の平均後退速度を求めた.中生代堆積岩地域を流れる夏井川で求めた遷急点の後退速度は,中生代花崗岩地域を流れる有家川・高家川で求めた後退速度の2.5―3.5倍の値を示す.これは基盤岩石の物性が遷急点の移動速度に大きく影響することを示唆する.遷急点の形成と成長については,広域的な隆起に伴う基準面低下が関係していることが推定される.遷急点が形成された時期は,三崎面形成期(MIS15)以降,麦生面形成期(MIS11)ころまでと推定される.なぜこの時期に遷急点が形成されたか,第四紀の三陸海岸の地殻変動論の枠組みで考察するとともに,遷急点の形成・成長に関係する水文条件や原地形について検討することが今後の課題として挙げられる.