日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 621
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発表要旨
秋田県田沢湖高原ブナ林表層土壌における菌核の分布特性と土壌性状との対応
*坂上 伸生渡邊 眞紀子
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抄録
 冷温帯から亜寒帯を中心とする森林土壌からは,直径数mm程度の菌核が多量に検出されることがある。これらの菌核は,形態的特徴から外生菌根菌などが形成したものと考えられる(Trappe 1969)。菌核の存在量は土壌の交換性AlやC/N比など,いくつかの理化学性と関係を持つことが報告されている(Sakagami 2009など)。本研究では,ブナ林下表層土壌でミクロスケールでの調査を実施し,菌核分布と土壌性状との対応を検討した。
 本研究では,菌核の存在が確認されている秋田県田沢湖高原のブナ林において,10×10mのコドラートを設置した。2m毎の格子を設け,各交点で計36点の表層土壌を採取し,リター層の厚さを記録した。ハンドレベルと樹高棒を用いて簡易測量を行い,調査地の微地形を把握した。また,ブナの位置および胸高直径,そして下草の種類と位置を全て記録した。採取した土壌試料は風乾後,菌核の検出および土壌pH,全炭素・窒素含量,水溶性元素,選択溶解等の化学分析に供試した。
 図1に調査地の地形と植生を示す。表層土壌からは0.1~1.2 mg/gの菌核が検出された。コドラート周辺には17本のブナが存在し,胸高直径は10~50cm程度であった。林木の立地と菌核密度とは関係が見られなかった。また,ブナが生育していない領域を中心に,草丈20~140cm程度のササが多数存在していたが,菌核分布とは明確な対応は見られなかった。図2にO層の厚さ,菌核含量および化学分析結果の一部を示す。O層の堆積厚さは微高地で薄く,凹地で厚い傾向がみられた。O層の堆積が薄い地点において,より多くの菌核が検出された。腐植複合体アルミニウムAlp含量が多い地点で見られたことから,菌核形成を含む菌類の活動と土壌性状との間に強い関連があることが示唆された。調査地はpH(KCl)が2.8~3.6と強い酸性を示しており,このような極強酸性条件下では,比較的pHが高い地点に菌核が多く分布していた。これは,堆積腐植層の分解が良好な比較的高燥な条件下で,リターから土壌へ供給されるアルカリ金属・アルカリ土類金属含量が多いために土壌pHが比較的高くなるためと考えられた。また,外生菌根菌を始めとする土壌中の菌類の一部は,シデロフォアなどの有機化合物を生成して土壌から無機養分を得るため,土壌の化学的風化(Fungal weathering)に寄与することが知られている(Watteau & Berthelin 1994など)。化学的風化が一次鉱物からの塩基類の溶出量を増やす結果,pHの上昇がみられるとも考えられた。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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