日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 403
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発表要旨
ワーカーズ・コレクティブの展開と高齢者福祉ニーズへの対応
神奈川県藤沢市を事例として
*金田 亜妃子
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抄録

1、目的と方法 高齢者福祉ニーズは、住居や交通機関、買い物施設、病院、行政や民間事業者による各種サービスなどの社会的資源から、家族や友人、近隣者などの社会関係までを含む高齢者の生活空間の、関係性の中で形成される。本稿では、高齢者の生活空間内のこれらの配置によって社会的に形成されるニーズを、地域的ニーズと呼ぶ。この地域的ニーズに応える新たな主体として、各地でNPOや地域住民組織による活動が活発になっている。本稿では神奈川県藤沢市のワーカーズ・コレクティブ(以下W.Co)を対象として、活動の展開とその地域的諸条件を明らかにすることを目的とした。W.Coは協同組織型の民間非営利組織で、藤沢市において存在が顕著である。介護保険制度よりも以前から、地域における高齢者福祉の担い手として20年近く活動を継続してきており、地域的ニーズへの対応において蓄積がある。方法は以下の通りである。まず藤沢市の郊外化の過程の中で高齢者の地域的集中を示すため、地区別の住宅団地開発のデータを用い、それに小規模世帯割合のデータを重ねることで、何らかのきっかけで外部サービスへ依存する必要が生じる、ニーズの潜在地域を把握した。次に、行政や介護保険サービス事業者によって提供されるサービスや、その立地傾向を分析した。その上で、W.Coの立地の傾向やサービスの内容、経営や労働力、さらに独自のニーズ対応について分析した。最後に、W.Coがいかなる地域的諸条件によって存在しているのかを考察した。2、結果 藤沢市において、高齢化地区(図1)と60年代後半の住宅団地開発地区、小規模世帯の分布とに重なりが見られた。70年代後半の大規模開発によって誕生したのが大庭地区で、ここで流入した主婦の存在がW.Coの設立に貢献し、1990年代から設立が相次いだ。藤沢市の全14のW.Coは、生協法人Aを中心とするW.Coと、社会福祉法人Bを中心とするW.Coの2つに大別される。A系W.Coは市中東部に立地し(図1)、生協としてまとまりを持ってサービスを展開していることから複数事業所が一地点に重なる。経営面で収支を分け合い、かつ複数のW.Coによって複合的にサービスを供給している。B系W.Coは法人格の取得とともに分離独立していったものが多く、大庭周辺の市中西部から中南部に分かれて分布する(図1)。しかし、社会福祉法人Bが運営する特養施設を中心としたまとまりを維持しており、業務の請負を通じて連携体制を築いている。両系統のW.Coはグループ化することと、介護保険制度施行後、一方では保険適応のサービスを提供することで収入を得、民間事業者の中で競争力を保っていた。もう一方では保険によらず、非採算部門の独自サービスを「地域に必要なサービスを自ら作り出し、担う」というW.Coの理念の下提供することで、保険の規定から漏れるニーズに対応していた。3、まとめ 開発時期のずれによって、藤沢市には異なる世代が流入し、高齢者とW.Coの間で福祉サービスの受給関係が形成されてきた。W.Coは一方ではグループ化と保険収入によって継続的に経営を行い、もう一方では非採算性を被りつつも保険外に自由度の高い独自サービスを持つことで、保険の規定に漏れる地域的ニーズに対して独自性を持って展開してきたと言える。

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