抄録
1. はじめに東日本大震災及に伴う原発事故以降,再生可能エネルギーである地中熱を利用したヒートポンプの導入が各自治体で促進されつつある.しかし実際にヒートポンプを導入した場合の地下の熱汚染や地下水流動への影響については不明な点が多い.本研究は,ボーリング資料から作成した三次元の地質モデルを利用し,首都圏での地中熱利用に伴う影響を事前評価した結果を報告するものである.2. 対象地域の地質と研究手法関東平野西部には武蔵野台地に代表される更新世後期以降の段丘地形が広がり,特に多摩川の下流域左岸には一部に最終間氷期の堆積面である下末吉面が分布している.本研究では下末吉面の淀橋台地西端(稲子ほか,1978)で掘削されたCRE-NUCHS-1コア(船引ほか,2011)を中心とした東西5km×南北5kmの範囲でボーリング資料を収集し,熱汚染の影響が予想される地下20~30mの範囲で,関東ローム・段丘礫層および上総層群の分布域を明らかにした.さらに岩相を考慮して平均熱伝導率を求め,地下水位から求めた地下水の流向・流速について検討した.3. 結果と考察段丘礫層は主に神田川・北沢川・烏山川の流路沿いに集中している.また下末吉面の中央部では段丘礫層の分布が見られず,上総層群を直接ローム層が覆っている.計算の結果,段丘礫層の集中する地域では特に熱伝導率が高く,地下水流速(浸透速度)も速い傾向が見られた.このことから,当地域においては礫層の厚さを地中熱利用の適地選定を考慮する条件のひとつとすることができる.