日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 307
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発表要旨
活断層上の土地利用規制を含む徳島県の防災条例
条例の制定プロセスと成立の条件
*村山 良之増田 聡
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抄録

1 徳島県南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例

2012年12月,「徳島県南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例」が可決された。概要及び策定経緯は以下のとおり。
①地震防災のために土地利用規制(条例では土地利用の適正化と呼称)を包含。
②津波に対しては,国の「津波防災地域づくりに関する法律」の枠組みを利用。
③活断層の変位(ズレ)による直接的被災を防ぐため,我が国で初めて活断層上の土地利用規制を導入。
④活断層上の土地利用規制がかかる区域を,幅40mの「特定活断層調査区域」に設定。
⑤同区域内で「特定施設」の新築(建て替えを含む)を行う場合は,事業者は県へ届出・協議→活断層の調査を行い,活断層直上を避けて新築する。これに従わない場合は,県は必要な措置をとるよう勧告・勧告内容等の公表ができる。
⑥「特定施設」を定義:学校、病院その他「多数の人が利用する建築物」および火薬類,石油類その他「危険物を貯蔵する施設」のうち一定規模以上の施設。
⑦宅地建物取引業者は,「特定活断層調査区域」にある宅地又は建物を取り扱う場合,同区域にある旨及び条例に規定する内容を説明するよう努める。

2 活断層図の作成と公表

活断層上の土地利用規制を行う前提として,オーソライズされた活断層図が必要となる。既存活断層図を参考に,活断層の専門家(岡田篤正委員長,中田高,堤浩之,後藤秀昭,村田明広の各氏)が再検討を行い,作成された。その結果は,縮尺を変えて2段階に分けて公表された。

3 予察的仮説:我が国で初めて徳島県で条例化ができた理由

①住民が活断層のことを既によく知っている(レディネス)。
②対象活断層が横ずれで断層線が比較的明瞭でもわかりやすい。
③対象活断層において30年以内発生確率が低い。
④活断層専門家の協力による活断層図のオーソライズや助言。
⑤活断層が明瞭なところのみ区域指定し,少しでも不明瞭な部分を条例の対象から外して「活断層の調査を推奨する区域」とした。
⑥「特定活断層調査区域」を幅40mと狭く限定した(加州活断層法では平均の幅約300m)。
⑦調査で判明した活断層直上のみ建築を回避(距離設定なし)。
⑧規制対象建物を厳しく限定し,一般住宅等を除外。
⑨「特定活断層調査区域」というマイルドな名称。
⑩東日本大震災による低頻度大規模災害への認識の高まり。
⑪東日本大震災の機会を捉えた(政策の窓)。
⑫首長によるリーダーシップ。
⑬住民,関係団体への丁寧な説明を含む,慎重な条例制定に向けたプロセス(表1)。
⑭国の「土砂法」「津波防災地域づくり法」が既に土地利用規制を含んでおり,これが地ならしとなった。
⑮カリフォルニア州「活断層法」,ニュージーランド「活断層指針」との比較すると違いはあるものの,その導入において,前者(上記⑨,⑪),および後者(⑧)を参考にしたと推測される。

徳島県では,住民によく知られた明瞭な活断層が存在し,その活動逼迫度もけして高くないことを基盤に,東日本大震災の機会をうまくとらえ,対象断層(土地利用規制区域)と対象建物をかなり絞り込んで,住民による受容のために様々な工夫をこらして慎重に策定作業を進め,国内外の法規等を参考にしつつ,我が国で最初の活断層条例を成立させることができた。現段階でこのようにまとめられよう。

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