日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0501
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発表要旨
シンポジウム開催にあたって
仮設住宅から復興公営住宅へ ―地理学と隣接分野からの提言―
*増田 聡
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抄録

1.研究グループ活動と現行の応急仮設住宅制度の限界
「東日本大震災による被災地の再建にかかわる研究グループ」では、岩手県宮古市等をフィールドとして、応急仮設住宅の温熱環境や仮設住宅住民の日常生活時の身体活動(体力)や心理・健康、買物行動・余暇活動等に見る生活環境の実態調査を進めてきた。建築計画や住環境工学等の分野でも、短期収容施設(災害救助法)である「応急仮設住宅」を、2年を超えて「住宅」として貸与することの限界性が様々な面から指摘されている。部分的には、民間賃貸住宅の借上げ(見なし仮設の本格導入)、寒冷地・雪国仕様の後付け採用、木造仮設の地場生産(プレハブ協会以外との協定締結)、グループホーム型仮設の試行、仮設住空間の自己改造(カスタマイズ)のボランティア支援など幾分かの前進も見られた。しかし、最悪時200万戸を超す全壊家屋が想定される南海トラフ巨大地震に備えるためにも、抜本的な「仮設住宅の計画・供給・運営体制」の再構築と「提供すべき住環境水準と費用負担」の見直しが必須である。
また、都市計画・まちづくりの分野では、被災集落→避難所→仮設住宅→復興公営住宅・個別自力再建という「居住地の移動再編と居住形態の自己選択/強制避難」の過程で、住民自治組織のメンバー構成や意思決定・合意形成手順のあり方、専門家の役割等を巡って、復興の現場毎に様々な議論や実践(と検証)が進められている。
今回、2013年秋季学術大会においてシンポジウムを企画開催するにあたり、応急仮設住宅から復興(災害)公営住宅への移行が政策課題化しつつある現時点で、改めて考慮しておくべき課題とその対応策について、地理学とその隣接分野からの提言を受けて整理することを目指した。 

2.シンポジウムの構成と狙い
本シンポジウムでは、まず上記研究グループのメンバーから、仮設住宅における生活環境や住民の健康状態(体力・心理・行動)、震災前後の都市構造再編や仮設商店街の役割と課題等について、これまでの研究成果を踏まえた話題提供を行う。さらに都市計画学や政策評価論等の視点から、住宅再建に関わる課題の提示と分析枠組みについて提言を頂いた上で、意見交換・相互コメントを通じて、復興公営住宅の整備に向けた論点整理を試みたい。

3.復興(災害)公営住宅の課題(予察的整理)
2011年末迄に、多くの自治体(福島県の原発被災地を除く)は震災復興計画の策定を完了し、災害公営住宅の建設(候補)地の選定も具体化しつつある。また、自治体・被災集落を単位とする数次の住民アンケートから居住意向の確認が行われ、災害公営住宅の建設戸数の見積もりが進んでいる。しかし、住宅再建支援制度の揺れ(防集事業等の既存制度の拡充・拡大解釈、自治体独自支援策への復興交付金充当など)の下で、世帯分離や別居の進展、所得条件や住宅再建意欲の格差拡大、人口の転出増や帰還意欲の低減など、様々な要因が複合的に関わり、建設戸数の見積もりが上・下方修正される傾向にある。
地域特性や住民属性を踏まえた精査が今後必要であるが、現時点での予察的試案として、復興(災害)公営住宅に関わる諸課題を以下に列挙しておきたい。
1) 地域配分・用地選定:大規模集約かコミュニティ別分散か
2) 建築住戸形式:集合形式か戸建て形式か、配置計画は
3) 立地コミュニティ:住民階層、社会サービス、生活支援
マスハウジング型大規模中高層化や、重み付け抽選による一斉入居の問題点は分かっていながらも、現行公営住宅制度の下で入居の公平性を確保しつつ迅速な供給を第一義とするには、都市部では大型団地建設も推進せざるを得ないという現実がある。デイサービス・生活支援体制の併設も不十分。
4) 住宅性能:公営住宅としての最低基準・費用、
被災者支援としての自治体裁量(上乗せ・横出し、個別対応、追加費用)
5) 周辺環境:市街地埋込みかニュータウン型か、インフラ水準
高台移転とコンパクトシティ化とは両立しがたいケースがある。長年の住宅(地)計画の研究成果を生かせる機会でありながらきめ細かな対応が十分には採用できていない。
6) 需要変動:高齢化と空き家化、一般公営住宅化や廃止時期
7) 建設後の維持管理:管理費用、追加投資、払い下げ
建設当初から高齢単身化率が高く、過疎地域では人口流出の加速もあり10年を待たずに空き家化が進行、家賃収入が乏しく維持管理費負担が困難、その一方で福祉介護サービスのニーズ急増などが現時点で事前に想定できるものの、その解決策を多角的・組織横断的に検討・準備できていない。
8) (広域的)復興公営住宅の計画・供給・運営体制と根拠法

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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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