抄録
目的
活断層の長さは,地震規模の推定に大きく関連する.演者らは,主要活断層帯から発生する地震の規模の再検討のため,断層帯末端部の詳細な活断層認定を行っている.その中で,富士川に沿って延びる身延断層の新期の活動を示す断層変位地形を発見した.本報告では,新たに認定された富士川沿いの活断層の地形学的な特徴とその意義について速報する.
断層変位地形
松田(2007)は,身延断層が大城川を横切る場所で,中新世の凝灰岩が現河床の砂礫層に西から東に向かって衝上することから,身延断層が活断層であることを指摘した.変動地形学的に認められる活断層は,これより少し北の身延町橘町や元町の西,身延川下流の西岸から波木井川の西岸斜面にみられる傾斜変換線や複数の鞍部を連ねる位置にあり,ほぼ南北に直線的に延びる.身延町橘町や元町の西,小田船原や小田などでは,このトレースを横切る短い支流が左屈曲をしており,活断層は高角の横ずれ断層と考えられる.この活断層の位置は,上述した断層露頭より数百メートル東に位置しており,従来の身延断層と必ずしも一致しない.
大城川と波木井川の合流点の南,相又下や相又上でも支谷が左屈曲している,それより南では,身延断層に沿って相又川の河床を南に連なり,坂本の南の鞍部を経て亀久保に至るが,その間でも小鞍部を連ねるトレース上で谷の左屈曲が認められる.峰の窪で断層トレースは左にステップし,多段化した扇状地を変位させる西上がりの顕著な撓曲崖が認められることから,身延断層が活断層であることは確実である.断層トレースは南に向かってさらに左ステップするが,中野や御崎原では富士川右岸の段丘面上に,低断層崖と思われる南北に延びる西向きの低い崖が発達している.
船山川より南では,身延断層の走向は北西-南東に変化し,富士川の西岸の坂下に達する.この間,活断層は多くの鞍部を連ねた位置に一条の断層線として認定され,断層線を横切る多くの支谷が系統的に左屈曲している.
富士川東岸の南部町井出には,河床から約50 mの高さに狭長な河岸段丘面とそれを覆う南西傾斜の沖積錐・地すべり堆積物からなる小起伏面がある.両者の境界には山側向きの高さ数mの直線的な急崖が発達する.この崖は身延断層の南東延長に位置している.なお,JR身延線はこの場所に敷設されている.下流側の段丘崖は,低断層崖の南延長上で左ずれしており,西側隆起を伴う左横ずれ変位が卓越すると考えられる.
新たな断層変位地形の発見の意義
今回の身延断層に沿う断層変位地形の発見によって,地質学的には西傾斜の逆断層である身延断層は,最近の活動では左横ずれが卓越する特徴を持つことが明らかになった.横方向のずれの累積変位量は大きくても数十m程度であることから,本活断層において,比較的新しい時代に横ずれ主体の変動が起こったことを示している可能性がある.また,糸魚川-静岡構造線活断層帯の南端が,これまで知られていた甲府盆地南東部から,巨摩山地・富士見山東麓の活断層(久保田ほか,1989)を介してさらに南に延びるだけでなく,この断層がさらに南の入山断層と駿河トラフのプレート境界断層に連続する可能性も暗示させる.