抄録
平成20年8月末豪雨は2008年8月26日から8月31日まで降り続き,特に愛知県を中心とする東海,関東,中国地方において顕著な被害をもたらした.特に,愛知県岡崎市では29日2時の前1時間降水量が146.5mmを記録し,同時刻の東京都八王子市でも前1時間降水量が63mmと短時間で局地的な大雨に見舞われた.しかし,メソ対流系がどのように形成・維持されたのかについて課題として残されており,解明には時間・空間的により詳細な解析が必要である.
本研究では,領域気象モデルを用いて平成20年8月末豪雨の再現計算を行い,東海地方から関東地方にかけて豪雨がもたらされた原因について調べることを目的とする.
本研究で用いた領域気象モデルは,NCAR(米国大気研究センター)を中心に開発されているWeather Research and Forecasting (WRF)モデルのVersion 3.4.1である.水平解像度は,第1領域が12.5km,第2領域が2.5km,第3領域が500mとする.3段階のネスティング計算を実行した.積分時間は,2008年8月28日00UTCを初期値として,8月28日21UTCまでの21時間である.初期値・境界値として気象庁MSMの0時間予報値を利用した.その結果,950hPa面では太平洋から日本に向かって断続的に南東方向からの355K以上の暖湿移流が見られた.一方,500hPa面では,336K以下の低相当温位の領域が西日本側と太平洋側にも存在している.また,関東地方南部にも低相当温位の移流が確認された.これは,近畿地方と関東地方に形成されている2つの線状の降水帯と対応している.そのため,下層と中層の暖湿移流と中層の乾燥空気の入りこみにより降水が持続したと考えられる.愛知県側の降水域と関東側の降水帯は,同じ太平洋から暖湿移流が見られる.愛知県側では木曽山脈を迂回するように流れ込んでいる.そのため,地形による影響が考えられる.今後は地形を変えた感度実験を行い,さらに調査していく予定である.