日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 510
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発表要旨
日本における起業家行動の空間的特性
『新規開業実態調査』の分析結果
*石丸 哲史友澤 和夫
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抄録

産業振興には、企業誘致に代表される外発的な振興と、地域内での地場産業の振興等に加え起業・創業に焦点を合わせた内発的な振興があり(地域活性化センター,2012)、創業支援は地域の内発的発展に寄与できる可能性が高い。また、起業する際には地域の創業支援環境が大きく影響し、この環境には、創業を支援する制度的な側面、資金調達やビジネスサービスの利用可能性だけでなく、起業意欲を高揚させる風土や教育などが含まれ、さらには、起業家の個人的なつながりから得られるインフォーマルな支援も果たす役割は大きいものとされている(日本政策金融公庫総合研究所, 2011)。発表者は、これまで日本における企業の開業および廃業の地域的変動について分析してきた。その結果、大都市圏における活発な起業活動とその背景にある大都市圏における開業・廃業のボラティリティの高さが明らかになった。次の試みとして、各地域における起業家の行動や起業活動を明らかにし、その背景として創業支援環境を追究する。本報告では、起業家行動の空間的特性を明らかにする。2.起業家の空間的特性国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)が、2006年4月から同年9月にかけて融資した企業のうち、融資時点で開業後1年以内の企業(開業前の企業を含む)3,506社にアンケートを行い、回答が得られた918社(26.2%)の経営者の空間的特性を示したものが表1である。918人の起業家のおよそ2割が東京都で開業に必要な経験を積んだとしている。東京都を主な生育地とする起業家は10%未満であるにもかかわらず、最終学歴学校所在地や経験を積んだ場所として東京都を挙げている起業家は約20%存在する。このことから、地方出身者が東京都において起業に関する勉学や開業に必要な経験を積み、地方に戻ってあるいは東京を離れて起業するという空間行動が考えられる。また、対象となった起業家の時空間行動をみると、主な生育地、最終学歴学校所在地、経験を積んだ場所、現在の本拠地の4か所が同一地域である割合は、関東および近畿地方が85%、北海道・東北地方が78%、九州・沖縄地方69%、中部地方63%、中国・四国地方63%となっている。このように、地方出身者は、生育から開業まで自地域で完結することは少なく、開業のために必要な座学や体験を、東京を中心とした大都市圏に依存していることがわかる。本分析にあたっては、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「新規開業実態調査(国民生活金融公庫総合研究所寄託)」の個票データの提供を受けた。

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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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