抄録
1、はじめに21世紀に入り、日本国内では政府により観光開発が重視されると、衰退しつつある地方の地域活性化の手段として、多くの地方自治体がエコツーリズムに乗り出すようになった。エコツーリズムが注目されつつある中で、研究は増加傾向にあるが、それは地域づくり、あるいは地域活性化のための成功事例紹介、エコツーリズム活用法のような実践的なものが多くみられる。一方で、エコツーリズムを導入した地域で起こる問題については、適切な手法で遂行しないがための問題であるとの認識になりがちで、現場での状況が見えなくなってしまう可能性がある。理論と現実との乖離については直視しない傾向があるがゆえに、エコツーリズム導入地域の検証が十分になされていない現状にある。2008年、エコツーリズム大賞を受賞したことにより注目を浴び、里地里山を利用した日本型エコツーリズムの先進地として、日本各地から多くの視察が訪れるようになった飯能市エコツーリズムは、今や飯能市にとって無くてはならない要素の一つとなりつつある。しかしながら、その実態はいまだ発展途上の段階にあり、今後の運用あるいは展開次第で今後の命運は大きく分かれるであろうと想定される。2.飯能市エコツーリズムについての概要図:研究対象地域 エコツアーの様子①エコツアーの様子② 飯能市は都心から50キロ圏内に位置し、里山の豊かな自然と歴史や生活文化にあふれる、人口約82,000人の都市である。「森林文化都市」であり、市域の75%が森林となっている。かつて、当該地域は西川材の主たる供給地として林業で成り立っていたが、日本の他の林業地と同様、森の荒廃が進んでいる現状にある。エコツーリズムへの取り組みへのきっかけとなったのは、多くの観光客が訪れているものの、その大半が地域と関わりをもつことなく帰っていく状況の中で、自然環境への悪影響だけがあること、また、中心市街地の活力低下や山間地域の過疎化、さらには森の荒廃など、複数の要因が負のスパイラルを形成しつつあったことにある。2004年3月に環境省によるモデル事業実施地区の募集があり、飯能市は里地里山型のエコツーリズムモデル地区として選定された。これに伴い、飯能市では同年7月に環境緑水課に担当職員を設置し、10月に「飯能・名栗エコツーリズム推進協議会準備会」を設置、翌2005年3月までに5回の会議やシンポジウムを開催するなど、エコツーリズムの推進に向け大きく動き出した。 3.飯能市エコツーリズムの現状と今後の展望 飯能市では環境部環境緑水課にエコツーリズム推進室がおかれ、3名の職員を当てて運営している。また、飯能市エコツーリズム推進協議会が設置され、さらに活動市民の会という実働部隊も存在する。エコツーリズムを円滑に機能させるために必要な基礎的な要素が既に存在している。しかし、これまでに何度か議論を経て将来像を描いてきているものの、NPO法人設立の見送りもあり、未だそのシステムが未成熟であるため、機能的に動いているとはいえない体制であることは否めない。一方でシステムの再構築を有効に行えば、伸び代が大いにある部分でもある。エコツーリズム推進室のこれからの役割を整理し、エコツーリズム推進協議会を発展の土台とし、また活動市民の会を活動の中核として活用するなど、将来像をもって発展させていくことが肝要となる。 報告では、飯能市エコツーリズムの現状の詳細と今後の展望について、具体的に言及する予定である。