抄録
本研究は,日本列島における自然に適応した人々の生活を地理教育内容として確実に取り上げていくことをめざし,こうした問題を議論していくための基礎資料とするため,中学校社会科地理的分野での台風の取り扱いの現状や課題を明らかにすることを目的としている.中学校社会科地理的分野に関して,2008年版学習指導要領の記述,2012年度から中学校に供給・使用されている4社分の教科書の記述などを検討した.その結果,どの教科書でも,①台風が日本列島に多量の降水をもたらすこと,②暴風や大雨が災害をもたらす場合があること,の2点が記述されていることが明らかとなった. しかし,台風に適応した人々の生活について記述している教科書は1社に限られ,社会科地理的分野における台風の取り扱いは一面的であるといえる.中学校理科教科書では台風の自然現象としての側面を詳しく取り上げており,今後理科との連携をしていくためにも,社会科地理的分野では,自然への適応さらには台風による人々への恩恵という側面からの取り扱いを充実させていくことが今後の課題であろう.