抄録
1.研究の視点 地域分析にあたっては都道府県や市区町村といった自治体を単位とした統計資料の利用が一般的である。しかし自治体の単位は固定されたものではなく、市制施行や合併、政令指定市への移行、分割などによる境界の変更も多い。特に1999年から2006年ごろにかけて起こった、いわゆる「平成の大合併」によって、自治体の境界は大きく変化した。このような事態を受けて、その都度の手作業による市町村の組み換えは極めて負担の重い作業となっており、自治体を単位とした地域分析にも支障をきたしている。 これにあたり本研究では市町村合併等にともなう統計データの再集計ツールを開発した。これまで経年的な分析において障壁となっていた、市町村合併による再集計の作業を自動化することにより、地域分析の現場において作業効率が飛躍的に向上することが見込まれる。2.主要な機能 開発は一般的に普及している表計算ソフトMicrosoft Excel VBAベースで行い、利用者にとっても新たなソフトの購入や習熟を必要としない簡便なものとなっている。 再集計にあたっては特定の期間のみを対象とするのではなく、利用者が設定した任意の時期を期首・期末と設定することが可能となっており、用途に合わせた柔軟な利用が可能である。 また新たな合併が発生した場合でも、必ずしも開発者が継続的に合併履歴データをメンテナンスし提供し続けなければならない性質のものではなく、利用者が容易に合併履歴に新規データを付加しメンテナンスすることができる。そのため将来に渡っても利用可能な、継続性の高いシステムである。3.処理放送 任意の2時点間における行政界の変更を把握するためには、期首と期末の双方における自治体一覧をまずは作成する必要がある。処理にあたっては、全国地方公共団体コード(市町村コード)を基準とすることとした。コードは実質的には1969年1月1日付けで存在した自治体に交付されているため、まずは1969年時点での市町村コード一覧を作成した。 その上で1969年1月1日を基準日に設定し、以降の変化は差分として別のデータとして格納した。新たな合併などが生じた場合、利用者が必要に応じて追記することが可能となっている。市町村の変更は、以下のようにまとめた。一部では行政手続き上のものとは異なっているが、市町村コードと自治体名称の関係から、以下のものに統一している。①町制(村から町への変更。名称は変化するが、コードは変わらない)、②市制(村・町から市への変更。名称・コードともに変化する)、③市制改称(村・町から市への変更。名称・コードともに変化する。事実上②と同一)、④編入(既存自治体への編入。編入先の名称・コードは変わらないが、編入する自治体の名称・コードは消滅する)⑤改称(名称は変化するが、コードは変わらない)、⑥合併(新設自治体への編入。新設自治体には新しい名称・コードが交付され、編入する自治体の名称・コードは消滅する)、⑦政令市(政令指定市への移行、区に分割される。名称は変わらないがコードは変化する)、⑧分割(2つ以上の自治体への分割。既存の自治体はそのまま残るほか、新たな名称・コードの自治体が設置される)、⑨新設(新たな自治体の設置。処理上の便宜的なもの) 基準となる1969年時点のコード表に市町村の変遷を逐次的に付加していくことで「期首市町村一覧」「期末市町村一覧」および「期間内の変更一覧」が作成される。 最終的には、ここまでに作成した市町村変遷データをもとに、新たなワークシートに数値データは再集計し出力される。ただし現状では数値データの合算のみに対応しており、人口密度や特化係数といった合計が意味を成さないデータについては対応していない。 本ソフトウェアは発表者のウェブサイトにて公開・配付する予定である。 http://www.hhamada.com/ 本研究にあたっては国土地理協会の研究助成を受けた。