抄録
1.はじめに 本研究では、2地点間を結ぶ直線距離と道路距離(最短経路の長さ)とに着目し、国内道路網のGISデータを使って、2つの距離の関係を実証的に調べる。2地点間の距離を考えるとき、その道路距離は直線距離と同じかそれより大きくなるはずである。この道路距離の大きさを左右し得る要素には、地理的スケールと道路網の構造がある。そこでここでは、これらの要素が異なる地域の道路網データをいくつかとりあげて、そこでの2地点間の直線距離と道路距離とを計測することで、地理的スケールや道路網構造などの要素と2つの距離との間にどのような関係が見られるのか明らかにする。直線距離と道路距離との間にはおおよそ正比例の関係がある(腰塚・小林1983)。直線距離に対する道路距離の比は、どの2地点間で距離を計測するかによって異なり、実際の道路網に依存する。これまでの研究は、道路網の構造的特徴の中でも主に道路パターンに着目し、これと両距離間の比との関係について明らかにしてきた。たとえば栗田(2001)は、仮想の円盤都市において格子型道路網と放射・環状型道路網を想定し、その稠密道路網において直線距離に対する道路距離の比がどのようになるのか理論的に分析している。しかし実際の道路網は「格子型」や「放射・環状型」といった典型的な道路網でないことが多く、一般に複雑である。理論的な分析に留まらず、直線距離に対する道路距離の比について実証的分析が求められる。2.方法 本研究では地理的スケールについて2つの視点から分析する。ひとつは道路網の詳細度である。これは国道など道路網の一部種類だけをとりだした(比較的詳しくない)ものか、すべての種類の道路網(最も詳しい)を扱ったものか、といったことである。もうひとつは道路網の空間的広がりである。たとえば、市町村規模か、都道府県規模か、といった行政レベルによる違いがある。ここでは、道路網の詳細度、さらには(行政レベルの)空間的広がりがそれぞれ異なる道路網をとりあげて分析する。 次に、道路網の構造的な特徴を考える。ここでは、以下の指標を使って構造的特徴を分析する。道路網を含む領域の面積、その領域の形状、その領域における道路線密度、ノード密度、リンク密度、道路の粗密分布、および道路網のネットワーク結合度、ネットワーク近接度、道路パターンである。3.結果 詳細度が高いほど、直線距離に対する道路距離の比(以下、距離比)とそのばらつきは小さくなる関係が見られた。一方で、空間的広がりの違いについては、距離比に対して明確な関係が見られなかった。 構造的特徴については、道路線密度が15㎞/㎢以上になると、距離比とそのばらつきがほぼ一定の値を示すことがわかった。一方で、道路網を含む領域の境界位置が距離比に対して少なからず影響することもわかった。境界位置で道路リンクが切断されて、2地点間の真の最短経路が計測されなかったためであろう。【文献】栗田 治 2001.円盤都市における道路パターンの理論―直線距離,直交距離並びに放射・環状距離の分布.日本都市計画学会学術研究論文集 36:859-864.腰塚武志・小林純一 1983.道路距離と直線距離.日本都市計画学会学術研究発表会論文集 18:43-48.