日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P051
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発表要旨
木津川下流域における天井川の発達過程
*石川 怜志須貝 俊彦
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抄録
I Introduction 天井川とは河床面が周辺平野面より高くなった河川である。堤防により河道が固定されると洪水流の氾濫が抑制され、堤外地での堆積が進行して河床が上昇し、天井川が形成される。II Background & Objective 天井川の形成には洪水プロセスや歴史時代の環境変動といった自然科学的要素に加えて、過去の人類の河川認識や治水技術などの社会科学的要素が関与していると考えられる。そのため、天井川の研究は沖積平野の形成過程の未解明な部分を補填するだけでなく、将来の治水や防災において有用であり、沖積平野に生活基盤を持ち、洪水等の災害が頻発する日本においては直近の研究課題である。しかし天井川は人工地形であるとみなされてきたため、地形学的な側面からの研究があまり進んでこなかった。天井川には、どのような地形に成立するのか、なぜ局所的に堆積が生じるのか、いつ形成されたのか、という大きく分けて三つの疑問点が存在する。天井川の発達過程の原因に関して様々な理由が考えら れてきた。堤外地に土砂が堆積する理由について、斉藤・ 池田(1998)は河道の延長に伴う河床縦断面の応答を、 石原ほか(1962)は河床が高浸透能であるために水位が減 少しやすいことを挙げている。形成時期に関して、総じ て絵図や古文書を参照して年代を推定している研究しか なく、正確な形成年代はわかっていない。堆積物から天 井川の形成年代を推定した研究例は少なく、東郷ほか (2002)、中塚ほか(2010)が 14C 年代を計ったもの(1300 年 頃という結果がそれぞれ出ている)に限られる。そのた め、堤防形成と天井川の形成との時期的な関連も不明確 である。大矢(2006)は木津川において天井川の形態を 4 種 類に分類しているが、その他の地域については行ってい ない。そもそもこれまでの研究で沖積平野の形成と天井 川の形成との関係にふれているものはほとんどない。天井川は沖積平野に形成されるが、人類の活動が極め て強く形成に関与し、10~102 年のオーダーという極めて 短いタイムスケールで形成されたという点で沖積平野と は特徴を異にする。沖積平野の形成と人間活動の関与に 関して井関(1983)が現在見られる自然堤防の形成の要因 が森林伐採によるはげ山化である可能性を示唆している。 千葉(1956)は天井川の形成要因に同じく森林伐採の影響 を挙げており、天井川の形成と中世頃の沖積平野の形成 には何らかの類似点があると考えられる。そのため、天 井川の形成過程の研究は沖積平野の理解にも貢献すると 考えられる。そこで本研究では、人類の関与や気候変動、土砂堆積域の 変化、沖積平野と天井川との関連等について議論し、天井川 の発達過程を明らかにすることを目的とする。III Target Area & Methods本研究では京都府南部の木津川下流域を対象地に設定し た。ここには天井川が 20 本近く現存し、洪水の防止のため 工学的な資料が多数存在することから、木津川下流域の地形 発達と天井川の発達過程を議論しやすいと考えられる。本研究では天井川の川幅や集水面積、河床縦断面図などの 河川データと地形分類図、14C 年代を含む堆積物の分析、そ の地域における歴史的資料を用いて研究を進める。まず空中 写真、地形図、DEM、ボーリングデータから地形分類図を作 成した。また天井川取り壊し工事中の支流である防賀川の露頭に おいてサンプルを採取し、天井川堆積物の基底に存在する木 片の 14C 年代を計測中である。IV Results and Discussion地形分類図によると、支流が形成した地形を本流が切る形 で蛇行原が形成されている。さらに本流が形成した蛇行原を 覆うように、天井川沿いの微高地が形成されている。このこ とから、木津川本流の人工堤防が形成された後、支流が天井 川化したと考えられる。また、上流に扇状地を持たない天井川が存在すること、上 流に谷底平野を有するものが存在することが示された。木津 川右岸では支流が形成した段丘が存在し(池田 1980)、多く の天井川が扇頂から形成されている。天井川沿いの微高地も 大きいものが多い。一方、左岸では天井川沿いの微高地の規 模は煤谷川以外では小さく、扇頂だけでなく扇央、扇端から 天井川が始まっている部分も存在する。この要因の一つとし て、上流域が右岸では山地、左岸では丘陵と異なるために土 砂供給量の違いが天井川の形成区間や天井川沿いの微高地 の規模や形成に影響を与えていると考えられる。
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