日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P072
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発表要旨
南アルプス南部,赤石岳北西斜面の風衝砂礫地に分布するソリフラクションローブの堆積構造
*菅沢 雄大新井 悠介近藤 玲介増沢 武弘宮入 陽介横山 祐典
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抄録

日本アルプスや大雪山などの高山の山稜部に広がる周氷河性平滑斜面の風上側最上部には風衝砂礫地が分布する.風衝砂礫地には,構造土やソリフラクションローブなどの周氷河性の微地形が見られる.北アルプスの白馬岳や薬師岳では,これらの堆積構造から形成時期が報告されている(例えば,高田 1992).しかし,南アルプスでは,荒川三山周辺における植被階状土(例えば,小山 2010)を除き,詳細が不明である.そこで本研究では,南アルプス赤石岳において風衝砂礫地のソリフラクションローブの堆積構造および形成時期を報告する. 赤石岳(標高3120 m)北西の標高2850 m付近にはダマシ平と呼ばれる平坦面が広がっている.この南西斜面(風衝側斜面)において,首都大学東京地理情報研究室所管の解析図化機(SD 3000 UNIVERSAL,Leica Geosystems社製)を使用して等高線間隔2 mの地形図を作製し,風衝砂礫地の分布範囲を記載した.また,風衝砂礫地に分布する4ヶ所のソリフラクションローブにおいて,深さ0.7~1.5 m,地表面の最大傾斜方向に深さ0.8~1.5 mのトレンチを掘削し,斜面の表層堆積物の断面を記載した.なお,本研究で取り上げる風衝砂礫地には矮小化したハイマツや矮性低木のパッチがまばらに分布する範囲が含まれている. 調査斜面の標高2800 m付近から稜線部にかけて風衝砂礫地が広がる.稜線部の風衝砂礫地には構造土やソリフラクションローブなどの周氷河性の微地形が多く分布し,地表面の礫が斜面下方に移動する斜面も一部見られる.このような領域は標高2830 m付近まで広がる.一方,その下部から末端部にかけての斜面は,砂礫地の地表面の礫に地衣類が着生していることから現在は微弱な斜面物質の移動しか生じていない斜面であると判断できる.そのような風衝砂礫地の末端部にはソリフラクションローブが見られ,下部のハイマツに覆われる平滑斜面と接している. 風衝砂礫地の末端部に分布するソリフラクションローブとその下部のハイマツに覆われた平滑斜面にかけてトレンチ掘削を行った結果,斜面構成物質の堆積構造が明らかになった.この堆積物は,垂直方向の層相変化が明瞭で,ソリフラクションローブの表面角礫層を除くと4層に大きく分けられる.①の層は,ハイマツの生育部分に見られる腐植質土層で,黒色(7.5YR2/1)を呈する.②の層はソリフラクションローブを構成する角礫・亜角礫層で,層厚5-10 cmの砂・シルトに富む層とそれらを欠いた層が交互に堆積している.③の層は②の層の下位に見られる埋没土層で,暗褐色(10YR3/4)を呈する.この埋没土層中に,鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)に対比される火山ガラスの濃集部が認められた.④の層は長径1-5 cmの角礫・亜角礫からなり,長径10-30 cmの礫を多く含む.この層の淘汰は悪く,礫支持で基質に乏しい. トレンチの記載結果から,ソリフラクションローブを構成する層はK-Ahを含む埋没土層の上位に見られることが確認できた.このことから,風衝砂礫地の末端部に分布するソリフラクションローブの形成時期は,K-Ah降下以降の完新世の寒冷な時期であると考えられる.

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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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