日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0101
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発表要旨
関東平野北西部猛暑研究の動向と本シンポジウムの目的
*中川 清隆
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抄録


Ⅰ. 関東平野北西部猛暑研究の動向

 わが国観測史上最高気温40.9℃の記録を持つ熊谷をはじめ,館林,伊勢崎,前橋,高崎といった関東平野北西部では,暖候季にしばしば猛暑が集中して発生し,最高気温起時は太陽南中後約3時間と遅い傾向があり(中川,2010),近年その頻度や強度が増加傾向にある(藤部,2012).藤部(1998)は,850hPa気温≧21℃,日照時間≧8時間の著しい高温気団に覆われる晴天日の増加を関東平野内陸域における猛暑日増加の主要因とし,一般風西風型および弱風型猛暑の場合には都市化も要因の一つとした.
 近藤(2001a)は,1992年7月29日猛暑の原因として,①北西上層風の関東内陸部までの長いフェッチに伴う大きな熱移流項と,②山岳風下の関東平野上空における下降気流に伴う大気境界層厚減少による熱容量減少を指摘した.近藤(2001b)は,晴天日の関東地方における,①海岸付近の海風循環低気圧,②長野県-関東平野標高差に伴う対流混合層高度差による内陸低気圧,③谷状地形を呈する関東平野北西部斜面を上る斜面循環流反流収束による前橋付近の強い下降流が形成する熱的低気圧の連携による猛暑発生機構を指摘した.木村ほか(2010)は,理想化実験により,山岳において成長する混合層が平地に比べて高温位の上層大気を混合層内に取り込み,これが一般風および局地風により輸送されて山岳風下側の混合層および地上の温位を上昇させることを指摘した.
 篠原ほか(2009)は,彼らのシミュレーション解析および桜井ほか(2009)の事例解析の結果に基づいて,①背の高い暖かい高気圧下の沈降場における断熱圧縮昇温と鉛直方向の拡散抑制,②高い最低気温,③埼玉・東京都県境での海風前線停滞による海風侵入の阻止および山越え気流の継続,④力学的フェーンによる昇温の4点を,2007年8月16日猛暑の原因とした.
 渡来ほか(2009a,b)は,魚野川-利根川の谷(ギャップ)を塞ぐ数値実験の結果等に基づいて,2007年8月16日はドライフェーンであったが,午前中は浅いフェーンであり,午後に深いフェーンに変化したと結論付けた.Takane and Kusaka (2011)は,2007年8月16日は,山越えの際に日射により加熱された山地斜面から非断熱加熱が付加される,ウェットフェーンでもドライフェーンでもない第3のフェーンであったと主張した.
 Enomoto et al.(2009)は,2004年7月20日猛暑は,①チベット高気圧北縁のアジアジェット気流蛇行の東方伝播による小笠原高気圧の強化と,②同高気圧から吹出す高相当温位風による山岳風下フェーンにより形成されたと結論付け,同猛暑が大規模現象と密接に関連していると主張した.
 熊谷地方気象台はHPにおいて,①東京都心からの熱移流と②秩父山地越えフェーンの2点を,埼玉県の平野部が暑くなる理由としている.吉野(2011)は,関東の異常高温時の予察的モデルを提唱した.局地的強風により海風前線が侵入し難い水平距離150~180kmの本州脊梁山地ギャップ出口のほぼ中央部に位置する熊谷と都心の間に海風前線が停滞するため,熊谷以北の地域が,海風による冷却を受けず,日射とフェーンによる加熱を受け,著しい高温に至るとした.

Ⅱ. 本シンポジウムの目的

 上述の如く,関東平野北西部猛暑の発生メカニズムに関しては様々な説があり,統一見解は未だ得られていない.本シンポジウムは,これらの諸説および7名の話題提供者による新たな見解を吟味・総括し,関東平野北西部猛暑の発生メカニズム研究の今後の課題を明確にすることを目指す.

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