抄録
剱岳西面にある池ノ谷右俣の標高2000~2400m付近には、長さ800m、幅30m程度の細長い多年性雪渓(以下、池ノ谷右俣雪渓とよぶ)が存在している。この雪渓は過去数十年間、完全に消失した記録が無い。また、雪渓脇のシュルンドの深さが30mに達するため(図)、かなり分厚い氷体を持つことが指摘されていた。しかし、別名「行けん谷」と呼ばれるほどアプローチが悪く、研究者による氷河学的な調査が行われたことは無かった。立山カルデラ砂防博物館の研究グループは、この池ノ谷右俣雪渓で、2012年9月25日に地中レーダー探査を実施した。その結果、雪渓下流部に厚さ30mをこえる分厚い氷体が存在していることを確認した。同年9月25日から10月27日までの約一ヶ月間、長さ4.6mのポールを氷体に達するまで埋め込み、測量用GPSを用いて観測して、氷体の流動観測を行った。その結果、氷体は一ヶ月間で10、15cm、雪渓の最大傾斜方向に流動していた。厚い氷体の存在と流動の両方を確認できたことから、池ノ谷右俣雪渓は、立山の御前沢雪渓、剱岳の小窓、三ノ窓雪渓と同じく現存する「氷河」であるといえる。