日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 508
会議情報

発表要旨
秋田県長走風穴における温風穴の再発見と地下氷観測
*澤田 結基鳥潟 幸男清水 長正
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに 秋田県長走風穴は、我が国で最も早い時期に風速と気温の観測が行われた風穴である。ここでは、小学校の校長であった荒谷武三郎により、夏は斜面の下部から冷風を吹き出すこと、冬は斜面の上部に温風を吹き出す「温風穴」があることが報告されるなど、現在にわたる風穴研究の基礎的な概念がつくられた研究が行われた(荒谷、1920)。 しかし、この先駆的な研究から100年近くを経た現在、倉庫としての風穴利用は途絶え、植生も変化し、荒谷によって発見された温風穴の位置もわからなくなっていた。そこで筆者らは、荒谷によって記載された長走風穴の温風穴を含む温風穴の分布を調査した。また、夏の冷風の噴き出しの要因になると考えられる地下氷の成長過程を観測した。2.調査方法  2010年12月より、筆者の一人である鳥潟が中心となり、荒谷の残した資料などを参考にしながら、長走風穴のある国見山(標高453.9m)一帯で温風穴の捜索を行った。その結果、2011年12月に、荒谷が撮影した場所と同一と考えられる温風穴を再発見することができた。この連絡を受けて2012年1月26日、澤田と清水が現地に向かい、鳥潟とともに積雪底温度と温風穴の温度測定を行った。また、2012年3月24日から6月1日の期間、風穴倉庫跡(2号倉庫)にインターバルカメラを設置し、90分間隔で風穴倉庫内のフラッシュ撮影を行い、倉庫の地下壁面に成長する氷を観測した。同時に、データロガーによる風穴倉庫と外気温の観測も行った。撮影データから、石を積み上げた壁を支える梁の上に成長する氷が確認できたので、この氷の上面と赤白ポールのピクセル座標を計測し、cm単位に換算した。3.調査結果 図1に、積雪底温度および温風穴の温度測定結果を示す。以下の記載は、2012年1月26日の記録に基づく。国見山の山頂に近い標高約430m付近に、荒谷(1920)によって記載された温風穴があり、約14℃の温風を吹き出していた。温風穴の温度は標高が下がるにつれて低下し、標高250m付近では4.7℃を記録した。また、標高約160-250m付近では、約0.5-1mの積雪に覆われた地表面温度が0℃以下の状態にあることが確認された。この標高帯には国の天然記念物に指定されている高山植物群落があり、夏には冷風の噴き出しが生じている。厚い積雪に覆われた地表面温度は通常0℃で一定になるので、氷点下の地表面温度は地下空隙に外気が侵入していることを示唆する。 倉庫内の地下氷は、4月1日に成長を開始し、4月10日までは断続的に成長した。成長と停滞を繰り返した要因として、壁面から滲み出る水の供給が断続的であったことが考えられる。4月10日までは気温が0℃を境に上下する凍結融解期であり、倉庫周辺で生じる融雪が断続的に生じたのであろう。成長は5月5日まで続き、15日まで一定で推移した後、融解に転じた。地下氷の成長は、冬期間に氷点下までに冷却された風穴倉庫内に融雪水がしみだし、壁面に氷を成長させることが明らかになった。
著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top