抄録
高度経済成長期以降の「大量廃棄型社会システム」の確立・定着や都市的ライフスタイル・使い捨てライフスタイルの浸透は多様かつ大量の一般廃棄物や産業廃棄物の発生を促し、日本はごみの処理をめぐる多様な問題に直面してきた。その中で、ごみの適正処理・処分をおこなう施設の整備を推進していくことが必要とされてきたが、一般に廃棄物処理施設は、悪臭、煙害、交通問題等に起因するイメージが良くないために、いわゆる迷惑施設として捉えられ、施設の建設にあたって地域社会とのあつれきや紛争が生じる事例が全国的に少なからず見られている。それ故に、施設建設に当たっては用地の確保、周辺住民の理解と協力を得ることに困難を伴うことが多い。 迷惑施設の立地を巡る環境紛争に関する従来研究においては、政策決定過程への市民参加制度や行政側の情報公開及び環境影響評価法など制度上の問題点の指摘が少なくない。また、廃棄物処理施設建設における合意形成に関する研究も多少存在している。瀬尾ほか(1989)は特に行政の役割に着目し、「合意形成のための情報伝達」と「合意形成のための場の形成」という2点からの検討を通じて行政と住民の間での合意形成の基本条件を示した。なお、高橋・古市(2002)は廃棄物処理事業を円滑に推進するため(今後の市民と自治体の良好な協力関係を構築するため)の市民参加及び住民合意の在り方について述べた。特に、自治体が市民への適切な情報や学習の場を設けることにより、市民の参加意識の高い計画策定にすることが可能であり、住民合意の形成にはその点が重要であることを示した。一方で、厚生省は「循環型の社会経済システムへの転換を目指すとしても(中略)廃棄物の適正な処理を確保していくことは、産業界のみならず国民的な課題として避けて通ることのできない重要な問題である」というポリティクスを示す中で、廃棄物処理場の立地を巡って地元は常に翻弄されてきたといえる(土屋2008:93-94)。現在、廃棄物処理場の立地を巡る各地での隆盛な環境住民運動の中で、建設反対問題における反対派ないし推進派のような「声をあげている」人たちを直接の対象とする研究は意外と少ないといえるだろう。もっと「声をあげている」人たちの研究があってよいのではないだろうか。 そこで、本稿では福岡県久留米市における新ごみ処理施設建設問題をめぐる地域住民反対運動に焦点をあてる。廃棄物処理場の立地を巡る住民と行政の関係の検討を通じて、住民参加の実態及び課題を明らかにすることを目的とする。具体的には、市の決めたごみ処理施設の建設計画に対して地域住民はどのような点に関して反対し、行政との対立構図になってしまうのか、それを分析しながら住民参加の実態を明らかにし、廃棄物処理場の立地を巡る住民参加の課題を示したい。本稿は必ずしも直接的に問題の解決を目指したものではないが、そのための何らかのヒントや手がかりを提供しようとするものである。