抄録
1 平成の大合併の概要 1995年の合併特例法改正を直接的な契機として、1999年4月の兵庫県篠山市の誕生に始まった政府の「平成の大合併」政策は、2011年3月で一応の終了をみた。この間、3,132自治体は1,721に減少し、延べの合併件数は640件(合併に関与した市町村数は2,142)、減少自治体数は1,502である。
合併政策を開始するにあたって、総務省は、1) 地方分権の受け皿づくり、2) 少子高齢化・人口減少時代に対応した自治体づくり、3) 拡大した住民の生活圏に対応した自治体づくり、4)行政の効率的な運営・財政の健全化という4つの目的を掲げた。このように平成の大合併は、地方自治制度改革の一翼をなし、人口減少時代・ポスト成長時代の自治体運営の改変と、住民にとってコミュニティ・生活拠点の再編を迫るものでもあった。
これまで日本では明治期の近代的な地方行政制度を整える(戸長役場・小学校の設置など)ための明治の大合併、第二次世界大戦後の民主的な自治体運営(新制中学校の設置・管理、社会福祉・保健衛生の市町村事務化)のための昭和の大合併である。平成の大合併として特筆すべき特徴は、(1) 住民の日常生活圏を大きく超える広域な自治体が誕生したこと、(2) 自治体の行政組織の「庁舎の方式」として、従来の本庁方式に加えて、総合支所・分庁方式が積極的に採用されたこと、(3) 地方交付税の合併補正・合併算定替の特例期間、合併特例債による財政支援措置など、手厚い支援制度が整えられたこと、(4)地域内分権制度(「地域自治区(一般制度、特例制度)」「合併特例区」および「地域審議会」)が導入されたことである。
2 政府・自治体による平成の大合併の総括
大合併政策が終了するにあたって、総務省を始めとする様々な機関・組織によって合併の総括がなされている。その中でも、2011年3月に出された総務省『「平成の合併」について』によると、合併による主な効果として、①専門職員の配置など住民サービス提供体制の充実強化、②少子高齢化への対応、③広域的なまちづくり、④適正な職員の配置や公共施設の統廃合など行財政の効率化があげられている。合併による主な問題点・課題としては、①周辺部の旧市町村の活力喪失、②住民の声が届きにくくなったこと、③住民サービスの低下、④旧市町村地域の伝統・文化、歴史的な地名などの喪失を指摘している。そしてこれからの基礎自治体の展望として、①市町村合併による行財政基盤の強化、②共同処理方式による周辺市町村間での広域連携、③都道府県による補完をあげ、①~③から各市町村が最も適した仕組みを自ら選択することを提言している。
県による総括も、総務省による総括とほぼ同じ点が指摘されている。静岡県のとりまとめ(静岡県・合併市町連絡協議会『市町村合併の効果と課題』、2007年3月)から特徴的なものを探ると、合併の効果:公共的交通の充実、地域イメージアップなど、合併のマイナスイメージ:財政状況の良好な市町に不利にならないか、サービス水準が低下し負担が重くならないか、などが指摘されている。
3 本シンポジウムのねらい
ひるがえって本シンポジウムでは、今回の大合併について、合併のプラス効果とマイナス効果を、研究者・調査者だけでなく、政治家・行政家と一般の市民の視点からも検証するとともに、今後の自治体・コミュニティ運営の新しい可能性を議論することが大切であると考えた。そして本シンポジウムでは、政治家・行政家、都市計画学、近代史の分野など地理学以外での知見も求め、一般市民の参加も得て、平成の大合併を総括し今後の新しい自治体運営の方向性を議論することとしたい。
本シンポジウムでは、森雅志富山市長の基調講演『富山市の合併とまちづくり』に続き、全国から富山県までの合併調査結果に基づいて、合併の成立・不成立要因から将来の自治体の姿について、合併後の広域自治体の地域政策や空間管理の制度について、被・非合併自治体の公民連携のあり方について、4名の研究者が報告を行う。4名の報告の前半部はおもに合併の経緯を中心に、後半部は合併後の自治体の新しい動きを中心に報告してもらい、報告者と参加者で情報を共有したい。
そして討論の部では、富山市から企画管理部企画調整課長酒井敏行参事の参加を得て、4人の報告者とともに、会場参加者からの質問・意見も織り交ぜて、(1) 合併自治体でのプラス効果・マイナス効果、今後の課題、(2) 非合併自治体・小規模自治体の動向とさらなる課題、(3) 合併自治体での新しい動き(まちづくり活動・地域内分権・公民連携の試みなど)について議論する予定である。