抄録
1.超広域合併都市の出現と問題意識
平成の大合併を通じて、小規模な県の面積規模にも匹敵する広大な行政面積を有する合併自治体が出現している。本研究では、行政区域面積が800km2以上の合併都市を超広域合併都市と定義している。その行政区域は基礎自治体としては従来の概念を上回る空間的規模を有する。地域自治・地域経営や空間管理の仕方を誤れば、合併のメリット以上にデメリットが顕在化するおそれがある。とりわけ、人口集積に乏しく、財政力が脆弱な地方小市圏型(人口10万人未満)の超広域合併都市では、問題傾向が強いことが予想される。
2.超広域合併都市の都市的特徴と地域政策
超広域合併都市は圏域の中心都市を核に形成されたものと、行財政基盤の強化を目的に中山間地域などの広面積の自治体が合併して形成された分散型の二つのタイプに大別される。前者は政令指定都市から地方中小都市まで幅広いが、後者のほとんどは中小都市レベルの規模に限られる。超広域合併都市の多くは、多様な土地利用や過疎地域を内包し、限界集落の顕在化、人口減少、低い財政力指数という特徴を有している。厳しい財政事情は行政サービスの効率化を求め、行政区域面積の広大さは構成地区の自立基盤の維持を要請している。超広域合併都市はこの相反する政策課題に対処しなくてはならない。地方中心都市は構成地区の自立基盤の維持を重視するが、財政的に厳しい分散型では公共施設の統廃合による合理化重視になりがちである。新しい中心と周辺の格差も顕在化している。
超広域合併都市の政策的特徴は域内連携・調整と域内分権によく表れている。域内連携・調整政策では「都市と農山村の連携」「地区連携における産業振興」、「公共施設の統廃合による効率化」が重視される。超広域合併は旧市町村間の広域調整を内部化し、域内連携・調整を容易にした。域内分権・住民自治に関しては、その広域性や構成旧市町村数の多さの故に、地域自治区制度など「旧自治体単位」への分権化が志向されることが多い。
3.地方小都市圏型超広域合併都市の地域経営上の課題と空間管理のあり方
(1)公共サービスの合理化と構成地区の自立基盤の維持
超広域合併都市は合併自治体数の多さと広大な中山間地域を含むため、同程度の人口規模の都市に比べ公共施設量が多くなる。身の丈にあった財政計画を立て、職員・議員数削減、公共施設の統廃合・民間移管や指定管理者制度の導入を通じて、歳出管理を強めている。しかし、超広域合併都市の公共サービスの合理化は容易でない。拠点間は遠距離にあり、脆弱な公共交通のもとで公共施設・サービスを統廃合すれば、地区の自立基盤が大きく損なわれる可能性がある。地方交付税の配分基準には面積要件もあるが、その割り増し率の妥当性については検討の余地がある。
(2)空間管理システム
地方小都市圏型超広域合併都市の多くは中山間地域に位置し、①盆地でのコンパクトな市街地形成と谷筋街道沿いの集落形成、②支線を中心に限界集落を内包するなどの特徴を有する。その地域経営と空間管理のアプローチとは、有中心型、分散型ともに都市構造のコンパクトさを活かして効率的に都市サービスを提供することである。しかし、問題は支線やその沿道にある集落の維持である。財政条件が厳しいなか、周辺地区の周縁集落への配慮は行き届かなくなることが多い。旧村中心はある程度政策的に生活機能の維持を図り、その他の地域は住民自らのまちづくりを支援する取り組み・制度づくりが必要となる。今後さらなる人口減少を控え、周縁部においては縮減管理も含めた地域経営が必要となる。
有中心型と分散型では超広域合併都市内の生活空間構造が異なる。有中心型は卓越した中心地区への機能集積が進み、周辺からの通勤・通学率も高い。分散型はそれとは対照的である。中心地区への通勤・通学率は低く、自地区内の就業率が高くなる。従って、有中心型では中心部と周辺部の連結強化が地域空間管理の基本となる。分散型では地区ごとの自立分散による地域空間管理を基本とし、併せて圏域構造・域内の階層性を踏まえて、複数の副次圏と拠点を維持することが求められる。しかし、有中心型であっても、超広域合併都市の空間はあまりにも広大であり、「中心への連結」だけでは対応できない。中心地区との連結度を高めて生活サービス水準を改善する隣接・周辺区域と、自立基盤の確保を重視する周縁区域に分けて地域空間管理を行なうことが重要である。