抄録
1.はじめに
1990年代後半より進められた一連の地方自治制度改革では,「平成の大合併」や三位一体の改革等に伴い,地方自治体では行財政運営の硬直化が進み,改革を進める必要に迫られている,こうした中,非営利組織や民間企業の役割の台頭や見直しを受けて,内閣府「『新しい公共』宣言」にみられる,行政と住民組織や企業などとの公民連携による地方自治への転換が期待されている.しかし地方自治が展開される地域は,行財政運営のみならず,社会,経済,政治状況等が異なるため,公民連携の成立状況のみならず,その効果や運営の実態を解明することが求められる.
以上を踏まえ,本報告では人口1万人程度未満(以下中小規模とする)の被合併自治体と非合併自治体を取り上げ,行政と民間企業,非営利組織間の関係事業運営の実態解明を通じて,公民連携の成果と課題について検討する.中小規模自治体は地方自治制度改革以降,①行政も含む域内の組織において資金や人員等自治を支える資源が不足する可能性が高い,②地方交付税改革に影響を受け財政が逼迫化した,③合併後の新自治体で周辺的な位置付けとされやすい,④一方で合併を選択せず単独での存続を決定した自治体も少なからず存在した,等の状況に置かれてきた.従って,「平成の大合併」から10年程度経過した現在,被合併・非合併の影響が先鋭的に現れると考えられる.
2.被合併自治体のまちづくりにおける連携と運営の変化
まず,被合併自治体の公民連携に着目する.被合併自治体では,町村役場の機能や,財政配分,職員配置が大幅な削減が予測される.従って,合併後に事業を存続・発展させる上では,企業や非営利組織が重要なアクターとなる.
事例である鳥取市鹿野地区(旧鹿野町)の場合,合併前に開始したまちづくり事業において,町が主導しながら,町内会や域内の諸団体を中心に結成されたNPO法人と連携して事業を展開してきた.合併後鹿野地区のまちづくり事業では,施設管理運営は第三セクターが担いつつもNPO法人が観光などの自主事業を中心にまちづくりの中核的な担い手へと転換した.また,NPO法人は,総合支所や,第三セクターや他の非営利組織も含めた域内アクターとの共同事業の強化,域外アクターからの補助金や支援を獲得することで,事業拡大と自律的な活動に繋げていた.
鹿野地区で合併後NPO法人が自治体の事業を継承できた背景には,事業存続に向けた住民意識の醸成と合わせて,合併前から行政とNPO法人の共同事業開始と事業運営にかかる情報の継承,NPO法人設立時や活動における域内外からの情報の獲得があった点があげられる.これらの点が合併後の地区内での自律的な活動に結び付けられたと考えられる.
3.非合併自治体における域外企業との連携の構築
次に非合併自治体におけるサービス提供の実態と連携の構築について,えりも町の包括業務委託の事例を検討する.えりも町では2004年度から,東京都に本社を置くサービス業者に町内の複数の業務を一括して委託している.現在,えりも町の包括業務委託ではサービス維持とともに,従来町が担ってきた非正規雇用の確保も果たしている.
えりも町で業務委託が継続できている背景には,域外業者との間での業務運営における方針の統一と.長期的な運営を念頭に置いた協働的契約を取っていた.域外業者が撤退した際にサービス供給が継続できなくなる条件下で,町では業者との業務運営方針の統一や業務にかかる情報共有に結び付けるため,委託業務開始直後に高頻度で運営の報告や交渉を実施した.これらの取り組みは,その後行政と民間企業の運営ノウハウの共有だけでなく,協調的で長期的に安定した事業運営に繋げることを可能にした.また,業務運営に対して違反や不備があった場合に,罰則ではなく行政と企業の対話と交渉による改善を図った点も,サービス維持と運営の安定化に寄与していた.
4.被合併・非合併後の公民連携の構築に向けて
事例における公民連携の構築においては,いずれも長期的な事業やサービスのあり方を定めた上で,事業の継承や連携の構築を進めていた.また連携を構築する際,長期にわたり公民間での高頻度での接触や交渉を行い情報や運営方針の共有化を進めていた.以上から,公民連携を構築する上では,中長期に渡る協力体制や組織間の信頼の確立を目指した業務運営方法の設計,並びに公民間での相互の情報交換と共有化が必要になると考えられる.