抄録
1 はじめに
本校理数科課題研究では、AEDの平面配置についての研究を行ってきた。そして、①生存率を50パーセントとしたときの設置基準が直線距離の半径では平均347m、建物がある場合では平均253mとなること、②夜間に使用可能なAEDがごくわずかであること、③人口の集中する市街地でも、AED設置数が不足していることを明らかにし、コンビニエンスストアへの設置を提案した(笠井他;2013).しかし、都市中心部においては、建物の高層化が進んでいるにも関わらず、垂直方向のBLS安全域に言及した研究は、岩船(2009)が鹿児島県庁舎において階段走行実験を行い、仮想都市でのBLS安全域を示した事例を除いてほとんど見られない。そこで、本研究では垂直方向にも考慮して、AED空間配置における課題を明らかにする。また、高校生の視点から「AEDの配置研究」から得たものを発表する。
2 立体的なBLS限界のモデル化
BLS安全域(BLS空間)を求めるために、傷病者の社会復帰率50%以上を目標救命率とすると、AEDでの電気ショックができるタイミングは心停止から5分以内とされている。これまで検討したシミュレーションから、AEDを取りに行くための往復時間を3分とし、水平・垂直方向への移動合計時間が3分になるBLS空間のモデルを作成した。
モデル化に必要な諸データは、近隣の11階建てマンション・本校校舎において、AEDの携帯走行実験を繰り返して求めた。
3 三宮周辺市街地におけるBLS空間
三宮駅周辺に1km四方の範囲を設定し、1メッシュが25mのメッシュマップを作成した。現地調査で確認したAEDの設置位置を表計算ソフト(エクセル)を用い、1つのセルを1メッシュと見立てて入力した。1シートにつき1つのAEDを配置させ、25mごとの垂直方向への限界値をセルに代入した。AEDの位置と各セルとの距離は三平方の定理を用い、AEDの設置されている階数が1階以外の場合は、1階3.5mとして計算し、1階(地上)を基準として加減した。このようにして、AED設置数である50シート分のモデルを作成。さらにこれらを関数を用いて1つのシートにまとめ、三宮周辺のBLSマップを作成した。
その結果、1600のメッシュのうち、地上での危険域は35メッシュにすぎない。しかし、建物で危険階を含むメッシュ数は696もあることが分かった。
4 考察
AEDは購入費が高く、維持にも労力がかかる.いくら人命が大切だからといって無数に配置することはできない。しかしながら、今回の研究から配置を少し工夫すれば、安全な地域が拡大することは明らかである。AEDの設置は、法律で義務付けられているわけではなく、設置場所は設置者の任意であることから、空間的配置の工夫は重要である。平面だけでなく垂直方向も考慮したAEDのより効果的な配置を、戦略的に考えるべきである。
5 おわりに
課題研究を終えて、①研究結果が出ても、それを実際に社会で実現させるのは難しいということが分かった。また②興味の分野が広がり、自分が将来したいことの参考となった。将来、何か社会的貢献ができるよう、研究開発を目指したい。