日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 207
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発表要旨
離島におけるインターネット利用の特徴
東京都小笠原村と島根県海士町の事例
*佐竹 泰和荒井 良雄
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抄録

1.背景と目的
2000年代以降,全国的に整備が進むブロードバンドは,高速・大容量通信を可能とした情報通信基盤である.音声や文字だけでなく静止画や動画の流通が一般的となった現在では,ブロードバンドはインターネット接続に必要な基盤として広く普及している.インターネットの特徴の一つは,距離的なコストを削減できることから,地理的に隔絶性の高い地域ほど利用価値が高いことにあり,こうした地域に対するブロードバンド整備の影響が着目される.
離島は,地理的隔絶性の高い地域の典型的な例であるが,それ故に本土との格差が生じ,その対策として港湾・道路などのインフラ整備に多額の公費が投入されてきた.しかし,高度経済成長期以降強まった若年層の流出は続き,多くの離島で過疎化・高齢化が進行するなど,離島のかかえる問題は現在もなお解消されていない.
それでは,離島におけるインターネットの基盤整備は,どのような地域問題に貢献しうるのだろうか.本研究では,離島におけるインターネットの利用実態を把握し,その利用者と利用形態の特徴を明らかにすることを通じて,インターネットが離島に与える影響を検討することを目的とする.なお,本発表では住民のインターネット利用について報告する.

2.対象地域と調査方法
東京都小笠原村および島根県海士町を研究事例地域としてとり上げる.本研究では,島民のインターネット利用実態を把握するために,両町村の全世帯に対して世帯内でのインターネット利用状況についてアンケート調査を実施した.小笠原村に対しては,2013年5月に父島および母島全域にアンケート票を送付した.回収数は403,国勢調査の世帯数ベースでの回収率は29.9%である.また海士町に対しては,2013年12月に町内全域にアンケート票を郵送し,394の回答を得た.2010年国勢調査によると,海士町における世帯数は 1,052(人口2,374)であるため,国勢調査ベースで回収率は37.5%である.

3.結果の概要
総務省が毎年実施している通信利用動向調査によれば,2012年の世帯内インターネット利用率の全国平均は86.2%だが,小笠原村は,82.1%と全国平均に近い一方で,海士町は54.2%と低い.海士町を例に回答者年齢別のインターネット利用状況を分析した結果,離島も全国的な傾向と同様に年齢の影響を強く受けることが明らかになった.一方,コンテンツの利用状況をみると,小笠原村と海士町共にインターネット通販の利用率が最も高く,次いで電子メールとなっており,電子メールの利用率が最も高い全国平均と異なる結果を示した.このように,インターネットの利用有無は回答者属性に依存するものの,利用内容については離島という地域性が現れたと考えられる.たとえば小笠原村では,観光業が盛んなことから自営業の仕入れにインターネット通販を使う例もみられた.
次に,居住者属性として移住の有無に着目し,海士町においてIターン者のインターネット利用状況を分析した.海士町のIターン者は若年層が多いため,インターネット利用率は約66%と隠岐出身者よりも高い値を示した.また,品目別にインターネット通販の利用状況をみても,Iターン者のほうが多品目を購入していることが明らかになった.
以上から,年齢の影響は無視できないものの,離島生活におけるネット通販の必要性,特に Iターン者に対する影響は大きく,ブロードバンド整備は移住者の受け入れに必要な事業であるといえよう.しかし,この結論は限定的であり,より対象を広げて議論する必要がある.

付記 本発表は,平成24-26年度科学研究費補助金基盤研究(B)「離島地域におけるブロードバンド整備の地域的影響に関する総合的研究」(研究代表者:荒井良雄,課題番号24320166)による成果の一部である.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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