抄録
Ⅰ.はじめに
我々は,関東平野北西部猛暑の発生メカニズム解明に資することを目的として,2012年8月から上信越山岳域の利根川-魚野川谷筋17地点および碓氷川-千曲川谷筋7地点の計24地点において高密度10分間隔連続気象観測を継続している.
この度, 当該地域における2013年8月晴天日の気温と気圧の日較差の関係について調査したので,ここにその結果の概要を報告する.
Ⅱ.晴天日気温・気圧日変化の抽出
先ず,欠測や異常値が無く144個の観測値がすべて有効な日のみを解析対象とする.次に,三国峠や碓氷峠を越えた地域における代表性に疑問はあるが当該地域南東部に位置する前橋地方気象台の日照時間が9.0時間以上の日を晴天日とする(該当日数は15日).上記の方法で抽出されたデータの時刻別月平均を求め2013年8月の晴天日における気圧日変化とする.
Ⅲ. 晴天日気温日変化と気圧日変化の特徴
図1(省略)は利根川谷筋の標高が,それぞれ,55m,265m,585m, 1400mの4地点における気温と気圧の日変化を日平均からの偏差で示したものである.当該地域の8月の太陽南中時刻は11:50頃なので,JSTは約10分遅れの地方太陽時とみなせる.
日最低気温起時はほぼ等しく, 日最大負気温偏差も高標高の赤城山▲以外はほぼ等しいが,赤城山以外の低標高地点の日最高気温起時には標高に依存する位相差と日較差が存在する.この特性が,関東平野北西部猛暑日の日最高温部を山麓域から隔離する重要な要因となっている可能性がある.赤城山と平野部との間に顕著な位相差は認められないので,この特性は標高の相違だけに起因するのではなく,谷の深さ等の地形の影響を受けた局地循環に起因している可能性がある.
図1より,調和解析を施すまでもなく,気圧の日変化には1日周期と半日周期が卓越していることが明白である.半日周期は大気潮汐に起因しており,高標高の赤城山▲では午前および午後9時の極大が明瞭である.赤城山以外の低標高地点では,夜の極大の位置はほぼ変わらないものの頂上が高原型になるのに対して,朝の極大はピーク形状を保ったまま2時間ほど位相が進んでいる.早朝の気圧降下は4地点ともほぼ同様の浅い鍋底型となるが,日中出現する午後3時ごろの気圧降下は極めて明瞭なV字谷型を呈し,最大負気圧偏差には明瞭な高度依存性が認められる.
Ⅳ. 日中の昇温量と降圧量の関係
図2(省略)は日中の最大正気温偏差(℃)と最大負気圧偏差(hPa)の散布図である.全24観測地点の状態点が谷筋別に区分して描画されている.全体的には両者には明瞭な負の相関関係が認められ日中の気圧降下が日中の昇温に起因することが明白であるが,同程度の日中の昇温に対して気圧降下量に0.5~1.0hPa程度のばらつきが認められる箇所があり,地上昇温量だけでなく昇温層厚の差異も貢献している可能性がある.負の相関関係は魚野川谷筋◆や碓氷川谷筋×で特に明瞭であるが,偏差の大きさは相対的に小さい.最も大きな偏差は千曲川谷筋△に現れ,次いで利根川谷筋○●に相対的に大きな偏差が現れる.利根川谷頭●ではほぼ同様の気温偏差に対して様々な気圧偏差が発生しており,この地域の日中の気圧降下の差が主として昇温層厚の差に起因していることが示唆される.
これに対して利根川谷口○では気圧偏差に顕著な気温偏差依存性が認められないことから,昇温層厚がほぼ一様でかつ薄い可能性がある.