日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 706
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発表要旨
養老山地および鈴鹿山地の東斜面における河床縦断形
*大上 隆史
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抄録
隆起する山体の河床縦断形モデル
アクティブテクトニクスによる隆起が継続している山地では,隆起と侵食のバランスが保たれる“平衡状態”に向けて変化していく地形モデルが一般に受け入れられている.こうした地形モデルにもとづいて河床縦断形と侵食速度(≒隆起速度)の関係などが論じられつつある.他方で,山地が“平衡状態”に達するのに必要な継続時間や,氷期間氷期サイクルや崩壊などの比較的大規模な土砂移動イベントと“平衡状態”との関連性についての検討は不十分な状態にある.隆起する山地地形の研究を進展させていくための基礎的な事例研究として,第四紀を通じて隆起してきた養老山地および鈴鹿山地を取り上げ,その河床縦断形の特徴を比較検討した.
養老山地および鈴鹿山脈の第四紀テクトニクスと地質
養老山地および鈴鹿山地は,東麓を西側隆起の逆断層である養老断層系および一志断層系に縁取られた東傾斜の傾動地塊である.両山地には定高性があり,養老山地の山頂には侵食小起伏面が発達し,鈴鹿山地では高位置小起伏面が貧弱ではあるものの分布する.鈴鹿山地東麓の後期鮮新世以降の隆起速度は0.58−0.68mm以上と見積もられている(石山ほか,1999).養老山地については最高地点の標高(908.3 m,笙ヶ岳),および隆起が約200万年前以降に開始し,約100万年前以降に現在と同程度の速度になった可能性が指摘されていることから,鈴鹿山地と同等の隆起速度であると考えられる.山地の地質はジュラ紀の付加体(砂岩・泥岩・チャート・石灰岩・玄武岩ブロック)と白亜紀の花崗岩(領家花崗岩類)からなる.
河床縦断形とS−Aプロットの作成
国土地理院が公開している数値標高モデル(10 mメッシュおよび5 mメッシュ)を使用して河床縦断形を作成した.計算にはUTM53座標系において10 m間隔で再サンプリング処理した数値標高モデルを用いた.山地尾根を源流とする河川を対象として流域解析を行い,流路となる各セルのXYZ座標と各地点の上流側の流域面積を算出した.また,流路長125 m毎に最近傍のセルを抽出し,各区間の平均勾配を計算した.上記のデータを用いて河床縦断形とS−Aプロット(横軸に集水域面積の対数:log(A),縦軸に勾配の対数:log(S)をとったもの)を作成した.隆起速度Uで隆起している地域の岩盤河川について,平衡状態に達しているときにはS=(U/K)1/nA-(m/n)という関係式が導かれ(たとえばWhipple et al, 2000),このとき,log(S)はlog(A)の一次関数として表現されると考えられている.
河床縦断形の特徴

個別の河床縦断形を見ると,それらの形状は一様ではなくばらつきが認められる.養老山地においてはS−Aプロットが直線状になるような河川が存在する一方,遷急点を有する河川,遷急点はないが下流で河床勾配が大きいままの河川が認められる.特に養老山地北部では遷急点や下流部の直線的な急勾配区間が多く存在する.鈴鹿山地においても同様に遷急点や下流側の急勾配区間が認められるものの,全体としてはS−Aプロットが直線状を呈する河川が多い.特に南部ではS−Aプロットが直線に近い河川が多く分布し,北部では遷急点等が分布する河川が多い傾向がある.
エリア毎の河川の平均的なS−Aプロット
研究地域を便宜的に養老山地北部・南部,鈴鹿山地北部・中部・南部の5つのエリアに分けて,各エリア平均的な河床縦断形(S−A図)を作成した.養老山地北部は徳田谷以北,養老山地南部は羽根谷以南,鈴鹿山地北部は員弁川源流以南,鈴鹿山地中部は多志田川以南,鈴鹿山地南部は田光川以南,御幣川以北とした.各エリアの全てのS-Aプロットにもとづき,流域面積の幅0.5毎に平均値を算出してこれらを繋いだ(図).
5つのエリアのS−Aプロットは全体としてよく似ている.一方で上に凸状を示す程度が鈴鹿山地よりも養老山地のほうが大きく,各山地内では南部より北部で大きい.こうした違いは隆起速度の長期的な変化(加速)様式を反映している可能性がある.
(引用文献:石山ほか,1999,地震,52,229−240;Whipple et al., 2000, Geol Soc Am Bull, 112, 490―503.)
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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