抄録
筆者らは,1)京都盆地における詳細な地形発達史を編むこと,2)旧石器時代以降における地形環境と人々の土地利用の関係性の解明を主な目的として,公益財団法人京都市埋蔵文化財研究所が実施する遺跡の発掘調査時に,微地形と浅層地質の調査を継続的に行っている.今回は,これまでの調査成果から,姶良Tn火山灰(以下,AT)の検出状況を中心に報告する.ATは扇状地群の発達過程を解明する上での鍵層であるとともに,最終氷期における京都盆地の景観復原において重要な指標として位置付けられる.
京都盆地では,これまでに多くの遺跡でATが検出されてきた.ATの検出地点が集中するのは,平安京の右京北部,鴨川以東の盆地東縁部である.これは,両地域が更新世の段丘からなり,それ以外の地域は完新世に鴨川や桂川などの氾濫によって形成された地形であることを示唆する.筆者らは,右京北部の1地点,盆地東縁部の3地点でATの検出状況を確認した.
平安宮典薬寮跡・六波羅蜜寺境内・六波羅政庁跡ではATの上位に薄い細粒堆積物と遺構関連の堆積物のみが認められることから,AT降灰までに段丘化した地形,すなわち更新世段丘に位置すると考えられる.一方,法勝寺跡・延勝寺跡はAT降灰後に砂礫の堆積を受けている.砂礫は,風化花崗岩起源であることから,東山から流れ出る白川の堆積作用を受けた可能性がある.また,その時期は地点④のATを覆う堆積物の年代から弥生時代前半と推定される.その場合,両層には時代的ギャップが認められることになる.