日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 526
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発表要旨
地域医療連携システムの利用における地域的偏在とその要因
大村東彼薬剤師会会員薬局に対するアンケート結果から
*中村 努
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抄録
Ⅰ.はじめに
公平性が求められる日本の医療システムにおいて,医療サービスのアクセシビリティの地域格差を是正する可能性をもつ取組みを検討することは地理学における重要な研究課題の一つである。近年,医療サービスの供給において,地域のニーズに合った医療供給体制を構築するため,ICTの活用を前提とした多職種による役割分担と連携が進んでいる。しかし,実際には地域的に均等にICTが普及しているわけではなく,利用の有無や利用の程度には地域的偏在が認められる。そこで,本発表では,地域医療連携システムの先進事例として知られる長崎県のあじさいネットを事例に,大村東彼薬剤師会の会員薬局のシステム利用状況を明らかにするとともに,システムの普及において地域的偏在が生ずる要因を分析する。
調査の実施にあたって,大村東彼薬剤師会の協力を得て,全会員薬局に対して調査票を郵送し,封筒またはファクスにて回収した。回答期間は2013年8月26日から9月6日までとした。回答率は81.4%(48/59薬局)であった。

Ⅱ.あじさいネットの概要
  あじさいネットワークは2004 年10 月に運用を開始し,長崎県内の主要な医療関係機関への普及を実現した地域医療連携システムである。参加形態は情報公開施設と情報閲覧施設の2種類に分かれる。前者は自施設の電子カルテをあじさいネットワークと接続して診療情報を公開する医療施設である。後者は公開された他の施設の診療情報を閲覧する医療施設である。
  2014年1月現在,長崎県内の22施設が情報公開施設として,214施設が情報閲覧施設として,あじさいネットに参加している。医療機関が大部分を占めているが,その他の施設としては,37薬局が情報閲覧施設として参加している。
薬局にとっては,情報閲覧施設としてあじさいネットに参加することで,情報公開施設内に蓄積されている電子カルテデータのうち,医薬品同士の飲み合わせ,がん告知の有無,抗がん剤などの副作用,処方意図などを知ることで,適切な服薬指導につなげられるメリットがある。

Ⅲ.大村東彼薬剤師会会員薬局のシステム利用状況
回答のあった48薬局のうち,8薬局があじさいネットに参加していた。あじさいネット参加薬局の在庫品目数は多い傾向にある(図)。参加薬局は,検査情報や処方意図の閲覧を通じた適切な服薬指導および薬歴管理に効果を見出していた。
あじさいネットに参加していない薬局に対しても,利点,コスト,セキュリティ,操作性の4点から,あじさいネットをイメージで5段階評価してもらった結果,薬局の多くがあじさいネットの入会金や利用料を高いと認識していた。不参加薬局もシステムの有用性を認めていたが,現状において情報公開施設の受診患者の処方箋枚数が少ないこともあり,費用対効果が低いとの判断から参加を見合わせていることが分かった。
一方,今後,参加を検討する意思のある不参加薬局が半数以上存在していた。このことから,あじさいネットの利用実績を提示したり,事前に効果を予測したりして,費用対効果を薬局に具体的にイメージできるようにすることが,あじさいネットの普及に向けた課題になっている。  地域医療連携システムはアクセシビリティの地域格差を是正する手段として,職種や地域によらず利用可能になっているものの,コストの利用者負担が依然として大きい。そのため,システムの費用対効果に対する認識の差が,新たな利用機会の格差を生じさせる可能性がある。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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