抄録
本報告は,1947年に発行された社会科読本『社会への旅』(全3冊,各A5判,計199ページ)の内容のあらましおよび作成の背景を明らかにすることを目的としている.『社会への旅』は,奈良県内の主として小学校高学年児童用の読本として作成された冊子である.全国的にはこれまでほとんど知られてこなかったが,地理的方法・内容に関する記述がふんだんに含まれていることや作成者グループの指導者的立場にいたと考えられる人物は,地理学を専門とする堀井甚一郎であったことから,戦後の社会科における地理教育の展開を把握するうえでは,基礎資料のひとつになると考えられるものである.堀井(1902年生)は,東京高等師範学校出身で,田中啓爾の教え子のひとりである.『社会への旅』発行当時,堀井は奈良師範学校教授であった.