日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 213
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発表要旨
冬季の晴天弱風夜間における東京都区部を中心とした気温分布
*高橋 日出男清水 昭吾大和 広明瀬戸 芳一横山 仁
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抄録

◆はじめに
都市気温分布には,最も高温な都心(peak)と田園・郊外域との間に,気温の水平傾度の大きい気温急変域(cliff)の存在が想定されている(たとえば,Oke 1978; 1987)。スプロール状に都市化が進行した日本の都市では,気温急変域は不明瞭ともされるが,Yamashita(1996)は鉄道を用いた移動観測の事例により,東京都区部やその周辺における気温急変域の存在を指摘している。また,山添・一ノ瀬(1994)は,自治体の大気汚染常時監視測定局(常監局)の資料により,弱風晴天日夜間の都区部を中心とした気温分布の考察を行い,明確ではないものの気温急変域に言及している。  本研究では,都心と周辺部との気温差が一般に大きい冬季の夜間を対象として,複数の観測網を併用した稠密気温観測資料に基づき,都区部とその周辺における気温急変域の発現位置と時間変化を明らかにすることを目的とする。解析にあたり,都心と都区部外側との気温差が大きい晴天弱風夜間の事例を抽出したが,その際に気温差の大小と気象条件との関係についても考察を行った。

◆資料と対象期間
本研究で用いた気温資料では,広域METROS(三上ほか 2011)は百葉箱,気象庁アメダスは強制通風式シェルターが観測に用いられており,常監局については両者が混在している。ただし,Brandsma and van der Meulen(2008)やAoshima et al.(2010)などによる各種シェルターを用いた比較観測結果から,日射のない夜間については,百葉箱と強制通風式シェルターによる観測値に,解析に支障のある差異はないと判断し,あえて複数の観測網による気温資料を併用した。対象期間は,欠測を含むが広域METROSの資料が使用できた2006/2007年から2009/2010年の冬季(11月から2月)とした。気象条件(夜間平均の雲量・風速・水蒸気圧,前日中の全天日射量など)は東京(大手町)の観測値を用いて集計した(風速計の移設も考慮)。また,アメダス4地点(府中,さいたま,船橋,海老名)と東京(大手町)との気温差の平均値を,都心と都区部外側との気温差(TD:以下,気温差という)とした。

◆都心と都区部外側との気温差について
日の出前の06時における気温差と気象条件との関係として,雲量の大小は風速の強弱にあまり関わりなく気温差の大小に強く関係するが,風速の強弱は雲量が小さい場合に気温差の大小と強く関係していた。また,気温差を被説明変数とした重回帰式と雲量や風速の日々の変動幅(標準偏差)などから,気温差の大小に対する影響の主従関係としては雲量が主,風速が従と考えられた。晴天弱風の夜間(夜間平均の雲量2以下,風速3m/s以下:73事例)における時刻ごとの平均の気温差は,日の入り前後に急増する。ただし,その後は日の出までほぼ一定の気温差を示すとした山添・一ノ瀬(1994)に対し,気温差は緩やかに増大を続け,日の出前(06時)に最大となる(図1)。また,同様の晴天弱風条件であっても,06時の気温差が大きい場合(4℃以上:37事例)の平均では,夜半以降も気温差が顕著に増大を続けるが,気温差が小さい場合(4℃未満:36事例)の平均では,夜半過ぎから気温差は漸減する。

◆気温分布(気温急変域)について
06時の気温差が大きい晴天弱風夜間について,欠測をできるだけ含まない多数地点を多数事例において扱えるよう考慮し,124地点(アメダス:4地点,常監局:61地点,広域METROS:59地点)が使用できる2冬季(2006/2007年と2007/2008年)の25事例を対象とした。なお,各事例の毎正時における気温観測値から,クリギング法によって約1km間隔の格子点値を求め,水平気温傾度(-∇T)などの計算や合成図等の作成を行った。  都区部における高温の中心は,夜間を通して中央区南部付近にある。都区部には明瞭な気温急変域(図2左)が多重構造をなして認められる(図2右)。気温急変域は日の入り前後の数時間で現れて,日の出前にかけてしだいに明瞭となるが,位置は変化しない。日の入り前後の気温低下量分布には,低下量の小さい都心部と大きい周辺部との間に,気温急変域に対応した気温低下量の急変域が認められる。その後の気温低下量も都心部で小さく周辺部で大きいが,顕著な急変域は認められず比較的なだらかな分布をしている。日の入り前後と夜半頃以降とでは,気温低下のプロセスが異なる可能性が示唆される。

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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