日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 805
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発表要旨
バンコクで働く日本人と「日本市場」
*中澤 高志神谷 浩夫由井 義通丹羽 孝仁鍬塚 賢太郎中川 聡史
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抄録
1.はじめに 現在、日本人の国際移動は第三段階にあるといえる。第一段階は、戦前から1970年ごろまでの「日系人」としての移住であり、経済的・人口学的プッシュ要因を背景に、政策的関与の下で行われた恒久的移動である。第二段階は1980年代以降に日本企業の多国籍企業化に伴って駐在員が増加した段階である。駐在員の派遣は企業組織の論理に起因しており、人的資源の最適な配置や従業員のキャリア形成などを主な目的とする循環移動である。現在に至る第三段階とは、1990年代半ば以降に自らの意志で海外就職を行う若者が増加してきたことを指す。こうした若者の移動は、必ずしも経済的な達成を第一の目的としておらず、自己実現の一手段という側面を持つ。報告者らは、2006年より、シンガポール、上海、バンコクなどの諸都市において、自分の意志で海外に移住し働いている日本人に対する調査を行ってきた。その結果、彼/彼女たちが海外就職を決意したきっかけは個別性が強い一方で、日本人の国際移動が第三段階を迎えた背景には、国内の若年労働市場の悪化や、日系企業の現地法人における駐在員から現地採用への切り替え、人材ビジネスの確立といった、共通の構造的要因にも目を向けるべきことが認識された。また、目的地となる都市ごとに移動者の属性や就業形態が異なっており、それを把握することも課題となっている。本報告では、シンガポールでの調査に基づくす既発表論文や、上海での調査に基づく学会報告を意識しながら、バンコクで働く日本人の特性について検討する。2.統計にみるバンコクで働く日本人の特徴2012年10月1日現在、バンコクに在留する日本人は、都市別では世界第4位である。海外在留邦人数統計によれば、バンコクの在留邦人の属性はシンガポールとは対照的である。すなわち、永住者が少なく、より男性に偏っており、同居家族として来ている人が少ない。上海とシンガポールとの対照性はさらに大きい。アジア通貨危機以降、タイに派遣される駐在員数は頭打ちであるが、在留邦人数は増加を続けている。大手企業の進出が一服した今日、タイに進出する日系企業の規模は小規模化しており、『海外進出企業要覧』から漏れている企業が少なくないと思われる。バンコクでは、日系企業や現地在留の日本人を対象とする「日本市場」の規模が大きいため、それを当て込んで日本人が起業した企業も数多く存在し、現地採用の日本人に対する新たな需要が生み出されている。当日は、報告者らが実施してきたインタビュー調査に基づき、バンコクで働く日本人の存立形態を、当該地域の「日本市場」の存在と関連付けて分析する。
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