日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 811
会議情報

発表要旨
米国アリゾナ州における小規模中心地の盛衰とフェニックス都市圏の経済開発の特性
*山下 博樹北川 博史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに
 米国南部のサンベルトは、1960年代より米国の人口増加の中心として北部の退職者やメキシコからの移民等、多くの移住者を受け入れてきた。1990年代以後はネバダやアリゾナなど乾燥地が広がる州が全米の人口増加率上位にランキングされている。乾燥に加え夏季の酷暑の気候条件のもと、定住人口の持続的な増加が可能になった背景には、水資源の確保、空調機器の開発・普及、人口増加を支える経済的基盤の存在が必要であった。
 他方、こうした条件が整う以前の当該地域は、資源採掘などで人口の定住化が進んでも、その持続性は極めて脆弱であった。そこで本研究では、本来定住化が困難な自然環境下にありながら、近年人口増加が顕著なアリゾナ州を対象に、人口定住化が困難であった時期に発生した集落等の中心地の特徴とその持続性について分析すると共に、1990年代より急速な人口増加を続けるフェニックス都市圏の経済開発の特性とその背景についても考察した。

2.小規模中心地の形成とゴースト化
  アリゾナ州にはゴーストタウンとなった集落が多く、消滅した集落の調査や資料収集は容易ではない。本研究ではアリゾナ州の約130のゴーストタウンの事例を紹介したShermanら(1969)を用い、それらの事例を丹念に分析した。なお、集落の成立期間を明確に示すことは困難であり、本研究では本文献に記載されている郵便局の開設及び閉鎖の年を採用している。主な分析結果は次の通りである。
①ゴースト化した集落の多くは鉱産資源開発に伴い19世紀後半から20世紀前半に形成された集落で、数年から数十年の寿命のものが多い。
②19世紀末頃までの初期にゴースト化した事例の多くは、資源枯渇等により鉱山が放棄された集落で、その寿命は短く、最盛期の人口規模も小さい。
③コロラド川流域に位置した集落は、河港としての機能を存立基盤に形成されたが、貨物船の動力化、大型化による港の変更により衰退あるいは移動した。
④集落は、a鉱山に隣接、b特定のあるいは複数の鉱山の周辺に位置し労働者の生活拠点として機能、c河港など物流拠点等の機能、などの機能をベースに鉄道駅やカウンティ役場などの機能を兼ね備える集落もあった。
⑤集落内の施設は、食料品等の店舗、飲食店、ホテル、郵便局、酒場など限定的で、一部には学校、教会、新聞社などをもつ町もあった。一部には中華料理店もあり、中国からの移民の存在が推察される。
⑥20世紀には資源採掘の大規模が進んだことにより、労働人口も増え比較的人口規模の大きな集落が現れた。
⑦資源枯渇化以外に、一部に治安の悪化や大火、他の集落での鉄道駅設置による中心性低下等で衰退した例もある。
⑧乾燥や夏季の高温などの気候条件がゴースト化の直接的な原因になった事例はみられなかった。しかし、当時はこうした気候条件が鉱業以外の産業の発達の阻害要因であったと考えられ、間接的な原因といえよう。

3.水資源開発と大都市化の進展(省略)

4.フェニックス都市圏の経済開発とその背景
 フェニックス都市圏は、ニューディール政策のダム開発で得た豊富な電力供給を背景に、軍事産業に関連した航空機産業や電気機械工業を発展させた。1990年代にはフェニックス南郊のチャンドラーを中心にシリコンデザートと称されるエレクトロニクス産業とICT産業の集積地が形成され、同都市圏に急速な人口増加をもたらした。現在でも、こうした産業部門の重要性に変化はなく、2007年におけるフェニックス都市圏の先端産業の従業者数は約27万8千人で、製造業従業者の47%を占める。またソフトウェア業などのITサービス業の従業者数は43万3千人で、2001~2007年間のその成長率も約75%増加した。こうした産業部門の成長が砂漠都市フェニックスの経済を支えている。
 エレクトロニクスとICT産業の成長を伴う経済開発を可能にしたのは、安価な労働力と砂漠に広がる広大な工業用地、西部の大消費地への近接性、豊富な電力供給で、精密機械製造に適した乾燥した気候も優位な条件となった。アリゾナ州にみられるように、乾燥地でも産業発展の可能性はあり、良質な労働力、産業政策やインフラ等の条件が整備されれば、乾燥地における新たな産業立地が模索されることが期待できよう。

[ 参考資料 ]
Sherman, J.E. and Sherman, B.H. 1969. Ghost Towns of Arizona, Norman: University of Oklahoma Press. 

  本研究は,鳥取大学乾燥地研究センターの平成24~25年度共同研究である「アメリカ合衆国南西部における都市開発の多様性と小規模中心地の盛衰に関する研究」(山下)と「乾燥地都市における経済開発とその特性-北米地域を事例として-」(北川)の成果の一部である。

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top