日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 621
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発表要旨
那須火山岩屑なだれ堆積物のテフラ層序と航空レーザDEMによる分布特性
*大井 信三西連地 信男
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抄録
1.はじめに
那須火山の山麓に発達する岩屑なだれ堆積物には,様々な時代のものが分布しているが,特に古い時代のものはその年代や規模などが良くわかっていない.そこでテフラ層序から年代を,航空レーザDEMデータからはそれぞれの流れ山の規模や分布を議論する.
2.那須火山岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
高久丘陵で見いだされる4つの岩屑なだれ堆積物のうち,今回新たに年代が定まったのは次の2つである.
御冨士山岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
御冨士山岩屑なだれ堆積物(Of-DA)の層位は,赤城行川テフラ(Ag-Nm)の上位,那須大島第4テフラ(Ns-Os4)とATの間とされている(鈴木,1992).今回の調査でAg-Nmの上位にある赤城鹿沼テフラ(Ag-KP)の直上にOf-DAが位置することが判明した.Ag-KPは鹿島沖海底コアのMIS層序から44.2Kaの年代が出されている(青木ほか,2008)ことから,Of-DAの年代は4万年前と考えられる.
余笹川岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
余笹川岩屑なだれ堆積物(Ys-DA)は,従来上位の黒磯岩屑なだれ堆積物(Kr-DA)と層位が近く約25万年前頃と考えられていた(山元,2006).しかし高久丘陵において,Kr-DAとYs-DAの間にはAPmを挟在する厚いローム層が存在し,Ys-DAを佐久山軽石(SkP;岩崎ほか,1984)が覆うことが明らかとなった.
SkPは福島県矢吹丘陵において,塩原大田原テフラ(So-Ot;鈴木ほか,2004)・塩原下郷テフラ(So-SG;弦巻ほか,2009)の直上にあり,喜連川丘陵においてもSkPの下位にSo-Ot・So-SGと同時期の金和崎火砕流堆積物(KN-pfl;弦巻ほか,2009)起源と思われる灰神楽がローム層中に認められた.
このことからYs-DAの年代はKN-pflの年代と近く,Ys-DAにはKN-pflの軽石が混入している(菊地・長谷川,2013)ことから,KN-pflの噴火後にYs-DAのイベントが起こったと考えられる.年代は下位にある貝塩上宝テフラ(KMT;鈴木,2000)のMIS年代(0.62Ma;中里,2006)と上位のAPmテフラ群の年代(0.3-0.4Ma)から外挿すると約50万年頃の年代が想定される.
Ys-DAは茨城県側の粟河軽石層(AWP;坂本・宇野沢,1976)に対比されることが明らかとなった(菊地・長谷川,2013).茨城県側の那珂川流域において,AWPは標高100-120mの定高性のある丘陵背面を形成しており,一方同じ那珂川流域において風成ローム層下部に真岡軽石(MoP)を挟在する春園Ⅰ面とされる23万年前の河岸段丘(小池・町田,2001)は標高60-70mの段丘面をなす.このような茨城県側での段丘と丘陵の標高分布は,Ys-DAの想定される年代と整合的である.
3.航空レーザDEMによる流れ山の分布特性
高久丘陵には4つの時代の異なる岩屑なだれ堆積物が分布し,そのうち3つの岩屑なだれ堆積物には流れ山が見られる.従来はこれらの流れ山を一括して議論するか,相対的に新しい山体崩壊であるOf-DAのみを対象としている場合が多い.崩壊源が失われているKs-DAやYs-DAの山体崩壊の規模を議論するのに流れ山のサイズ分布は有効である(吉田,2010).近年高精度の航空レーザDEMデータが整備されたので,流れ山の地形解析により時代の異なるそれぞれの流れ山の分布や山体崩壊の規模について議論が出来るようになった.
Of-DAの流れ山
那須町りんどう湖周辺に分布する.流れ山の直径は平均50-150mほどで,後述するKs-DA・Ys-DAの流れ山より小さく,流れ山の分布域も南部の山麓まで達していない.
Ks-DAの流れ山
高久丘陵南西部の那珂川寄りに分布する.流れ山の直径は平均200-300mでYs-DAと変わりは無いが,Ys-DAより平滑な流れ山の断面形を示す.
Ys-DAの流れ山
高久丘陵の余笹川の東部に広く分布する.岩屑なだれ堆積物としては,Ys-DAにKr-DAが薄く重なっている場合が多いが,流れ山はYs-DAが形成したと考えられる.流れ山の直径は平均200-300mで,Ks-DAより解析が進んでいる.Ys-DAはその分布域の広さや,茨城県の海岸部まで到達していることなどから,那須火山の山体崩壊としては最大規模のものと考えられる.
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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