日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P001
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発表要旨
5万分の1地質図幅「茂原」の地形考察
*大井 信三七山 太中島 礼中里 裕臣
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抄録

平成22~25年度に産総研によって5万分の1地質図幅「茂原」の調査が実施された.このポスター発表においては,特に図幅内の地形記載に焦点をあてる.茂原図幅は千葉県房総半島中東部に位置し,北緯35˚20’ 11.8“~35˚30’11.8”,東経140˚14’48.2”~140˚29’48.1”(世界測地系)の範囲に相当する.本地域の全域が千葉県に属し,茂原市,千葉市,市原市,大網白里市,長生郡長南町,同長柄町,一宮町,長生村の各自治体が所轄している.
図幅内の地形は大きく丘陵,台地及び低地に区分される.本図幅の西域を占める上総丘陵は,房総丘陵の北東部にあたる.台地は,図幅の北西端部に下総台地が小規模に分布している.両者の間は太平洋に注ぐ一宮川水系と東京湾に注ぐ村田川水系の分水界となっている.この分水界は急崖をなし牛久—東金崖線と呼ばれ,市原市牛久近辺から東金市までほぼ北東—南西の走向を持って連続している.また,図幅の南東部の綱田~市野々付近には夷隅川水系が小規模に認められる.
図幅内に分布する段丘は上位から下総上位面,市原面,吉附(きつけ)面,南総面,完新世段丘に区分される.下総上位面は下総台地において最も上位の海成面であり,MIS5eの海成段丘面と理解される.市原面は河成面で主に養老川や小櫃川の両岸に広がる台地上に平坦面を形成し(鹿島,1982)複数面に細分されるが,ここでは村田川水系に市原Ⅱ面が小規模に分布する.吉附面は図幅南東端の夷隅川下流域にのみに分布するMIS3の海成段丘面とされる(桑原ほか,1999).南総面(鹿島,1982)や完新世段丘は一宮川流域などの台地や丘陵を刻む谷沿いに発達する.
図幅内の低地は,一宮川,埴生(はぶ)川によって作られた低地と九十九里平野の南部である茂原低地に区分される.九十九里平野は,約5000~6000年前の後氷期海進からの海面の段階的な低下によって形成されてきた海岸平野であり,7~10km程度の広がりを持つ.東浪見~一宮間の上総台地と九十九里平野の間には比高30~50mの明瞭な海蝕崖が連続して存在し,九十九里崖線の南端部とされている.九十九里平野の浜堤は,第Ⅰ~第Ⅲ浜堤群に分けられる(森脇,1979).本図幅内の浜堤は,幅広い堤間低地に限られて第Ⅰ~第Ⅲ浜堤群が分布している.
上総丘陵を構成する地質は第四紀後期~中期更新統の上総層群(三梨,1954)であり,深海~浅海成の泥岩砂岩互層,砂質泥岩,泥質砂層等の半固結堆積物からなる.本層群の地層は北東~南西方向の走向を持ち,東側で古く西方に行くに従って地層が新しくなっている.丘陵の高度は全般的に西側ほど高く,東方に向かって低くなっている.また丘陵の枝尾根の斜面は,北西へ傾く緩やかな斜面と南東へ傾く急な斜面の組み合わせが多く,ケスタ様の地形を呈している.また,前述の地質構造の影響を受け丘陵を開析する谷は,北東~南西方向のものが多くみられる.また,谷の幅は広く,谷型の斜面が尾根部まで食い込んでいるため尾根が痩せている.
下総台地の面積を占めているのが上位段丘であり,下総層群木下層を段丘構成層として,その上位にHk-KlP群の軽石層より上位のテフラ群を挟む下末吉ローム層をのせる.また,木下層の砂層とローム層の間に常総粘土と呼ばれる粘土層が堆積している場合もある.この台地面は,本図幅内では60m前後~130m前後までの高度で分布し,台地の南端部で高く約130mを示し北に行くに従って高度を下げている.台地の勾配は,おおむね南南東から北西に傾き11/1000となっており,千葉県内に広がる下総台地の中で最も急傾斜を示す地域である.また下総台地は,東京湾に注ぐ村田川とその支流によって開析されており,平坦な面が小規模である.谷の殆どは南東側の牛久-東金崖線の段丘崖付近までをその流域として,谷底平野が谷の奥まで入り込み,谷頭が急崖となっているものが多い.また,丘陵と台地が接近する地域では,丘陵からの谷の浸食によって台地側の谷の谷頭付近の争奪が頻繁に行われている.
【引用文献】 鹿島 薫 1982,地理学評論 55: 113-128.桑原拓一郎ほか 1999,第四紀研究 38: 313 -326.三梨 昂 1954,地質学雑誌 60: 461-472.森脇 広 1979,第四紀研究 18: 1-16.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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