日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 216
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発表要旨
帝国日本における気象観測ネットワークの構築
満洲・関東州
*山本 晴彦
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抄録
1.日露戦争の開戦による臨時観測所の開設日露戦争に際して軍事並びに航路保護の目的から、1904年3月の勅令第60号により、中央気象台(現在の気象庁)の管轄のもとに5月までの間に臨時観測所が釜山(第1)、木浦(第2)、仁川(第3)、鎮南浦(第4)、元山(第5)に設置された。関東州においても、その直後の8月に青泥窪(第6、大連)・営口(第7)、翌年には戦火の拡大により4月には奉天(第8)、5月に旅順(第6・出張所)と順次設けられた。さらに、朝鮮には城津(第9)、樺太には九春古丹(第10、大泊)にも臨時観測所が開設され、計11ヶ所の観測所は日本の中央気象台臨時観測課)が統轄した。また、清国には臨時観測員を日本領事館に派遣し臨時出張所(芝罘、天津、杭州、南京、漢口、沙市)を開設した。2.東清鉄道(北満鉄道)による北満気象観測ロシアにより北満で連続的に気象観測が開始されたのは哈爾浜の1898年が最初で、少し遅れて1903年に鉄道沿線の数ヶ所で、その後測候所は漸次、数が増えていった。「北満農業気候概論」では、哈爾浜は1989年から、満洲里、海拉爾、免渡河、扎蘭屯、斉々哈爾、一面坡、牡丹江、太平嶺は1908年から、その他の観測所は全観測期間の観測資料が掲載されている。なお、一部の表では、博克図、安達、哈爾浜農事試験場、三姓、密門、愛河農事試験場、延吉も含め、計16ヶ所の観測所の気象概要が記載されている。多くの測候所は東清鉄道沿線に位置するが、三姓と延吉のみが例外的に沿線より外れている。1935年3月、北満鉄道は満洲国に譲渡されることとなり、これらの気象観測所と観測記録は満洲国中央観象台に引き継がれた。3.関東州における気象観測施設の変遷1906年7月、関東州に関東都督府を置く「関東都督府官制」が制定され、9月からは文部省が管轄していた中央気象台の臨時観測所は関東都督府へ移管され、大連、営口、奉天、旅順の臨時観測所は測候所に改称された。本台の大連観測所には技師1人、技手4人、営口・奉天・長春・旅順の各支所には技手1人のみの配置で、わずか9人で関東都督府観測所の本台と各支所の観測業務が行われていた。1926年6月には「関東都督府観測所」が「関東庁観測所」へ改称され、前年の1月からは南満洲鉄道株式会社の委託観測所での観測記録の整理、無線電信に関する気象業務が加わっていることから、徐々に増員が図られている。1929年9月には上層気流観測も加わっている。1934年12月には「関東庁観測所」が「関東観測所」に改称され、四平街でも観測所が開設され、1938年にはら関東気象台に改称され、技手が22名と当初の3倍弱の人員にまでに増員されている。なお、後述するが、満洲国中央観象台が1933年11月に創設され、奉天・四平街は移管、長春(新京)は新設されたが、周水子(大連飛行場出張所)、海洋島、貔山窩、普蘭店に測候所が開設されて、航空気象を中心に充実し、技師9人、属4人、技手45人の58人の体制となっている。4.南満洲鉄道株式会社における気象観測施設の開設1906年に設立された南満洲鉄道(株)は、1909年の熊岳城を初めとし、鉄道沿線の附属地に農事試験場・試作場・事務所を開設し、農業試験研究における業務内容の一部に気象観測を附設していった。1931年には、公主嶺、鳳凰城、鄭家屯、洮南、開原、斉々哈爾、敦化、林西、海龍、哈爾浜、海倫、遼陽の13ヶ所にまで拡充された。本観測記録は、「産業資料第35輯 第三次 満洲農業気象報告」など3冊に纏められ、中央観象台の気象資料にも掲載されている。5.満洲国中央観象台の創立と変遷 当初は関東観測所の長春(新京)支所を借りて気象業務を開始したが、関東軍参謀部の満洲国観象機関設置計画により、国防上きわめて重要な満洲北部の満ソ国境の黒河と満洲西部の海拉爾の地方観象台の整備を1934年に先行させ、翌年には新京の南嶺地区に本台が整備された。創設当初は、台長以下、技正3人、属官3人、技士6人のわずか13名の人員体制であり、日本の測候所クラスの規模であった。1935年には7ヶ所(富錦、綏芬河、満洲里、克山、赤嶺、興安、哈爾浜)、翌1936年は6ヶ所(牡丹江、索倫、延吉、承徳、密山、東寧)に観象台・観象所が開設され、定員も約60名まで増員されている。以降、毎年のように観測台・所の開設による測候職員等の増員が図られ、1940年には340名となり、北満の満ソ国境付近の鷗浦、呼瑪、佛山、羅子溝にも観象所が相次いで開設されている。これにより、1943年は458人、1944年には716人にまで職員が膨れ上がっている。
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