抄録
1,はじめに
フランスでは長い間,パリからの富の分散と均衡のある国土の発展を目標とした地域政策が行われてきた.しかし,グローバル化の進展により国際競争にさらされる中で,1990年代から2000年代にかけてフランス政府は地域政策の目標を国際競争力の維持,強化へと転換する.こうした背景のもと,クラスターを支援する必要性が議論されてきており,1990年代後半には同業種の中小企業集積を支援する「地域産業システム」政策が展開された.この政策は様々な要因により,失敗に終わったとされる.
この後を継ぐ形であらわれた政策が,2005年より開始されたフランス版のクラスター政策である「競争力の極」政策である.この政策は「地域生産システム」の反省も含めて策定され,大企業も含めた多様な業種の集積と広域的な連携がクラスターの特徴となっている.また,本政策は日本でこれまで行われてきたクラスター政策に比べ,政策的に支援されるクラスターが71と多い.フランス政府はこれを,「国際的な極」,「準国際的な極」,「国家的な極」の3つに分類しクラスターを差別化している.
本発表では「競争力の極」ウェブサイトにおいて整理されている統計情報をデータベース化し,「国際的な極」に指定されている6のクラスターの分析を通じて,フランスのクラスター政策の実態とクラスター政策がフランスの国際競争力の維持・強化にどのような影響及ぼしたかを考察する.分析においては特に業種の多様性と,空間分布に着目した.
2,「国際的な極」の現況
各クラスターの主要な業種を比較すると,バイオテクノロジー・医薬系のクラスターを除いて,多様な業種構成になっている.特に製造業と情報産業の両者が含まれるクラスターが多い.例えばICT産業のクラスターとされているシステマティックの主要産業は自動車産業業と航空宇宙産業である.異分野とのネットワーキングを支援することで競争力の強化をはかっていることがわかる.
また,参加事業所の空間分布(表)を見ると,参加企業の多い都市の上位にパリが入っており,パリとパリ以外の地域の広域的な連携が発生していることがわかる.フランスでは地方分権が進められ,地域政策も地域主導のものになってきているが,経済発展を進めるためにはパリとの関係が必要になっていることが示されている.
3,まとめ
フランスでは多様な業種を結合し,パリとのネットワークを形成することで国際競争力の維持・強化が図ろうとしている.しかし,国際的な極において参加企業は増加しているが,従事者数の増減は横ばいであり,またクラスターにおける新規創業も減少傾向にある.地域経済の発展や雇用の増加に直接的な影響に乏しく,国際競争力の強化という目標は達成の途上であることが示唆される.当日はより詳細なデータに基づき,政策と国際競争力の関係について議論したい.