抄録
大分大学地理学教室では,平成25年度より,教員志望学生を対象とした体験型プログラムを実施している。第一回目は,小学校教員志望の学生を対象に,小学校第5学年社会の単元で取り扱う農業をテーマとした,「農業・農村体験」を,茨城県かすみがうら市の上佐谷地区で実施した。体験型プログラムの実施目的は,プログラムに参加した教員志望学生が,その体験を活かした教材・授業開発をおこない,実践授業を実施することである。本研究では,「農業・農村体験」で得られた知見が,小学校社会科の教科書にどのように既述されているかを分析し,その結果を基に,教員志望学生を対象とした体験型プログラムの有為性について検討する。
本研究では,「農業・農村体験」を実施することによって,農家・農作業の苦労・工夫を体験者の目線からまとめることができた。また,教員志望学生が農作業を体験し,自らの体験と教科書の記載内容とを照査した結果,小学校学習指導要領解説「社会」に記載されている目的に反して,教科書の記載内容に空白域が存在することが見出された。体験型プログラムの特徴である,「体験して初めて得られる感想・感覚」というのは,換言すれば,「体験しなければ得られない感想・感覚」である。このような観点から,上述した本研究成果も踏まえて考察すれば,児童を指導する教員の経験が,もっとも重要な「生きた教材」になると言って過言ではない。したがって,教員志望学生を対象とした体験型プログラムは,十分に価値あるものと評価できると共に,その有為性も十分に認められるといえよう。