抄録
少子高齢化・人口減少時代に入った日本の人口問題は、地理教育が扱うべきテーマの中でも非常に重要なテーマの一つである。中学社会の地理的分野および高等学校の地理の現行カリキュラムが、地誌重視にシフトしていることも踏まえ、人口問題を地誌の枠組みでとらえる学習指導案を検討した。事例地域として、人口問題に関して多様な話題性を持つ愛知県旧藤岡町(現豊田市藤岡地区)を取り上げ、人口変動に伴う地域社会の変化を教材として扱う試案を提示する。
藤岡町は、広域合併する前の旧豊田市に隣接する、丘陵地帯に位置している。豊田市の発展との関係で、過疎化の時代、豊田の発展に伴う人口増加時代、いわゆるバブル時代のベッドタウンとしての人口増加時代、今後の急速な高齢化、と変貌を遂げた(遂げていく)特徴的な地域である。とくに2000年国勢調査においては「日本一若い町」となり、注目を集めたが、その後の流入の鈍化により、今後は高齢化が急速に進むことも確実である。時間軸、および豊田の近隣に位置する立地や空間スケールを意識して、人口変化がもたらされる要因と、人口変化が地域に与える影響を生徒に理解させること、様々な考察の観点が相互に関係しているということを意識した、いわゆる動態地誌の観点を取り入れた授業を行うことは、地理的な見方・考え方を涵養することにもつながると考えられる。